陸編7

 海斗は少し離れて付いて来ている。私は香苗の言葉を思い出して、変に意識してしまう。

「おい、大丈夫なのか? 顔が赤いぞ」

 言われて益々、真っ赤になったみたいで、海斗が手を延ばし額に手を置いた。

「熱は無いみたいだな。でも、何で赤いんだ?」


 そんな事言われても。まさか、海斗が気になるからなんて言える訳が無い。

「……何でもない。もう、帰っても良いよ。大丈夫だから」

 海斗は私の目をジッと見ている。

 優しい表情で。言葉は悪いけど本当は優しい人なんだ。


「分かった。でもな、水泳は止めた方が良い」

 いきなり何を言うのかと思ったら、水泳を止めろですって?

「何を言って……」

「これ以上泳いだら、お前は死ぬ」

 馬鹿な事を言って! 頭に血が上った私は、海斗に言いながらポカポカ叩いた。

「水泳止めろだなんて。あなただって泳ぐのに……ひどいっ! 私はどこも悪くなんか……」


 悔しかった。海斗も同じだと。泳ぐのが楽しくて仕方ない仲間だと思ったから、私に止めろと言った事が信じられなくて。

 海斗は黙って私に叩かれていた。瞳には悲しみの色を浮かべて。

 自分でも、最近体調が悪い事が分かってた。泳いだ後などは特に。

 でも怖くて、もしかしたら二度と泳げなくなると思っただけで、体の半分が引き裂かれるような気がする。


 両親を海で亡くしては居たけど、決して嫌いにはなれなかった。

『人魚の王子さま』がいる海を。

 泣きながら叩く私に、海斗は何も言ってはくれなかった。





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