陸編5

 海斗は保健の先生らしい人を睨み付けている。

「先生……ですよね?」

香苗が聞くと、白衣を着た若い先生らしき人は、ニッコリと笑って話した。


「今週から赴任して来た緒方 樹音ジュネです。よろしく」

 香苗が私にこっそり言う。


「男の先生でも、あんな綺麗な人だったらいいね」

 確かに下手すれば女より綺麗かも。

 ウェーブのかかった栗色の長い髪は後ろで結んんでいて、細面の端正な顔に眼鏡がよく似合う。


「君、何処か怪我でもした?」

 片手で眼鏡をスッと上げて私に話し掛けて来る。

 何と言って良いか分からず口ごもっていると、海斗がぶっきらぼうに事情を説明した。


「コイツが急に倒れたんだ」

「こら、コイツじゃ無いだろ。女の子には優しくしなきゃね」

 樹音先生が海斗を叱るが本気じゃ無くて、いたずらっ子を優しく叱るお母さんみたい。


「先生達って、もしかして……」

 香苗が聞くと、樹音先生は、ニッコリ笑い「親戚なんだよ」と話した。


「やっぱり! 緒方って言ったからそうじゃ無いかな~なんて」

 香苗は同じクラスなんだっけ。

 ぼ~っとしてたら、海斗と星哉は「授業が始まる!」と慌てて出ていった。


「香苗ありがと。早く行ったほうがいいよ」

 香苗は「うん」って返事をするけど、なかなか行こうとはしない。

「ねぇ、美海。あのさ……」

 ベッドに近寄り、耳元でコッソリ言う。


「さっき美海が倒れた時にね。海斗が真っ青な顔になって、おれが運ぶって聞かなかったんだ」

 もしかして、海斗は美海の事、気になるんじゃない?

 香苗ったら、海斗が私を? あんな事言ったの

に。






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