陸編2

「美海、どうしたの? ぼーっとして」


 香苗の言葉にハッと我に返った私は、もっと良く見ようと人垣を垣き分け前へ出た。

 後ろから香苗が「どうしたのよ!」と言いながら追い掛けて来る。

 何故かは、分からない。でも、見失ってはならないという気持ちが、私を衝き動かしていた。




 プールサイドをゴールに向かって、走って行く。心臓の音がすぐ近くで聞こえる。速く、強く。着いた時すでに、レースは終わっていて、プールから上がって来た男子達のその中に。


(王子さま?)


 ボンヤリとした記憶の中の人魚の王子さまに似ている気がした。

 そんな訳無い。それに髪と瞳の色が違う。

 だけど、頭では分かってはいるのだけど。

 懐かしさが込みあげてきて涙が止まらない。


「美海! 本当にどうしちゃったの?」


 香苗が私を呼んだ時、その男の子が振り返り私を見た。

 二人の視線が絡み合い。やがて、男の子が私に微笑み。そして、こう言った。


「なにか用? それとも、男の裸に興味でもあるのか?」

 これが、アイツと私の最悪の出会いだった。









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