海編10

「さあ、行きますよ。起きて下さい」

 軽く揺さぶられて、僕は目が覚めた。

 隣を見ると、セイヤが大きな欠伸をしている所だった。

 遂に人間界に来たんだ。美海にやっと逢える。


「感慨に浸ってる暇はありませんよ。直ぐに出発しなければ飛行機に遅れますからね」

 僕は支度をしながら、魔法使いに聞く。

「飛行機に乗るのに、僕達の身分はどうすれば?」

「リオン、そんな些細な事など気にする事は無いんですよ、既に手配はして有りますからね。私が今まで、何人の人魚を人間界へ送ったと思うんです?」


 人間界へと送られた人魚達は、魔法使いとの連絡を密に取り、後から来た同族を助け合うという暗黙のルールというものが有るらしい。

「だから、何ひとつ心配する事は無いんですよ。まあ、心配と言えばあなたの不自然な言葉使い位ですかね」

 やっぱり不自然なんだろうか? 気を付けなくては。


「おはようさん、朝食食べて行きなよ」

 トミーさんの言葉に、元気になったのはセイヤだ。

 いそいそと支度をしてキッチンへと行った。


「ひとつ約束して貰えますか?」

 一緒に行こうとした僕を、呼び止めて魔法使いは言ったのだ。

 人魚だと決して人間には明かさない事を。

 どんなに信頼出来る人に思えても。


「もし、約束を守らなかった場合は、契約は解除になります。直ぐに私達の世界へ戻らなくてはいけませんからね」

 僕は頷き誓った。必ず約束は守ると。


 飛行機は、ゆっくりと滑走路に降り立った。

 少し寝ていた僕は、着陸の時の振動で目を開いた。

 窓の外はスッカリ暗くなっている。


「んぁ〜良く寝たあ」

 セイヤも起きて一緒に窓の外を見て言った。

「すげ~綺麗だなあ。外一杯に光が有るよ!」

 滅多にない事だけど、僕もセイヤと同じ事を考えていた。

 この、光のどこかに居るんだ美海が。








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