海編7

 目の前にいる魔女ならぬ魔法使いは、僕に問いかける。


「君の願いは一体何かな?」


 てっきりお年よりの、怖そうなお婆さんなのだと思っていた僕は、まだ若い男の人だと分かり、幾分ホッとする。

 その人は、ワカメの様に波打つ腰までの黒髪に、覗き込む瞳は蛸の墨の色だ。


「お願いです! 僕が助けた人間の女の子が死んでしまいます」


 魔法使いはニッコリ笑い、僕の話しを聞いた後に言った。


「ふうん……分かったよ。それで? 君は何を、私にくれるのかな?」


 そう言われて何も言えなくなった。

 僕に、差し出す物は何も無い。


「僕には、差し出す物は何も無いのです。でも、貴方の云う事は何でも聞きます。ですから……」


 みなまで聴かずに、魔法使いは満足そうな笑みを浮かべて話す。


「一応、タダでは願いを聞いてあげられ無いのだけど。君は特別に願いを叶えてあげよう」


 ある試練を乗り越えて、彼女のハートを手に入れる事。


「試練?」


「そう試練だよ。それは、人間になるには避けて通れない。たとえそれが、私でもね」


 試練とは、僕とセイヤが人間になるためのペナルティだと云う。


「そして、これが一番重要なんだが……」


 もし、美海のハートを手に入れなければ、僕は海の泡になるという。


「お願いします」





 岸に向かい僕たちは泳いで行く。何故か、魔法使いも一緒に。

 そして、魔法使いから渡された、青く光る薬を飲んだ。

 苦しい――!! 息が出来なくなり胸を掻きむしる。

 だんだん意識が遠のく中で、美海の昔出逢った頃の美海が、微笑んでいた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る