第4話 川の外はゲームの世界?
顔を隠すように覆うローブに武器。2人の姿から、猟奇的な殺人鬼集団を連想してしまった。
「…」
大柄の男が私の方を向いたまま動かない。
「こんな馬鹿でもどうノスタルディア王国と関わっているかわからん。無駄に刃を消費することになるぞ」
「ノスタルディア王国…?」
なんだか聞き覚えのある単語だった。うーん、と頭を捻ってはっとした。
「ノスタルディアって、確かノアの冒険の?」
私はあまりゲームをしなかったが、ユイはゲーマーだった。中でもRPGが好きらしく、そういう類いのものは飽きるほど隣で見ていたため、私も少々知識がある。
「ノアの冒険」は数年前にユイがハマっていたゲームだ。ストーリーはほとんど知らないが、ノアの外見はそれはそれは格好良かったもんでよく覚えている。ノスタルディアは美しい国で、私は釣りをしたりするときだけ代わってもらっていた。
ストーリーはたぶん、魔王を倒す感じのゲームじゃなかっただろうか。私には釣りの記憶しかない。
が、誇らしげに知ったかぶりをしてしまったことを心底後悔した。
大柄の男が剣を抜き出したのだ。
「勇者と親しそうじゃないか」
「いや、だって、ゲームじゃん」
ゆっくりと近づいてくる男に、じりじりと下がることしかできない私。素早く動いたら切り捨てられそうだった。
この殺人鬼はだいぶまずい。だってノスタルディアが本当にあるような言い方を。ノアがまるで本当にいるかのような言い方を…。
私は思わず辺りを見渡した。
「これは、どういう…」
あの木も、あの丘も、あの山も、この川だって。全部知らない。分からない。
「ここは…どこ…?」
「レイ?どうしたの…?」
私の異変に気づいたクレナイが肩を支えてくれる。
「ユイ…美祐、樹…私、探さなきゃ…!」
「レイっ!?」
力が入らなかった足に無理やり力を入れ、私は走り出した。
「逃すな、追え」
「兵長やめてください!!」
川の上流を目指し、がむしゃらに走り続ける。足がもつれて何度も転びそうになりながら走り続けた。走っても走っても、私の馴染んだ風景は見当たらない。
ゲームの中に入り込んでしまうなんて、ありえない。そんなこと本当に起こっていいわけがない。
目の前がまた黒く染まる。私は急停止して、伸びてきた手をかわした。
「大人しくついてこい。殺しはしない」
あの兵長とはまた別の声、しかも2人。私はほんの少し後ずさった。頭が重い。ぐるぐる重い何かが渦巻いている。どうすればいいのか分からない。
死にたくない…!
踵を返して反対方向へ走り出そうとすると、いつの間にか後ろにいた3人目とぶつかった。
焦ったのも束の間、次の瞬間にはその人に蹴り飛ばされていた。鳩尾を蹴られるなんて経験をしたことがなかった私は、地面に這いつくばって痛みに悶えるほかなかった。
中学の3年間はなんちゃって剣道部ではあったけど、蹴り飛ばされたことはなかった。
「勇者とどういった関係だ」
「…会ったことも、ないです」
あのノアが本当に存在するかのように話すのはおかしな感じがしたが、今はそうも言ってられない。
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