梅ちゃん物語。その➀

月猫

わしゃ、あと10年。

 78歳の梅ちゃんは、知る人ぞ知る「スーパー悪たれ婆さん」であります。


 昔、バイクに乗って化粧品の訪問販売をしていた梅ちゃん。

 ある日、一時不停止でお巡りさんに捕まりました。

 罰金を払うのが嫌な梅ちゃんは、よりによってお巡りさんに悪たれました。


「なんで、オラだけ捕まえる! ここ、みんな止まらねぇで走ってるぞ‼」


 はい。悪たれ梅ちゃん、警察署に連行されました。

 そこで反省し、素直に謝るどころか、化粧品の販売を開始。

「あんた、この化粧水買わないか?」


 あぁ、神をも恐れぬ悪たれ婆さん。

 梅ちゃんにかかれば、お巡りさんなんて屁の河童でございます。

 天皇陛下にだって、総理大臣にだって、なにを言いだすか分かりません。

 梅ちゃんを捕まえてしまったお巡りさん、全く持って気の毒であります。

 

 怖いもの知らずの梅ちゃんがこの世で一番恐れるもの、それは貧乏暮らし。

 人生、金さえありゃいいのよ。

 人のことなんて知ったこっちゃない。

 義理人情で、おまんまが喰えますか?

 と、こんな感じで生きています。


 でも、貧乏の他にもう一つだけ怖いものが……

 それは、あの世にあると言われている『地獄』でございます。


「おら、死んで『地獄』に行くのは嫌だなぁ」というのが口癖です。


 地獄行きは嫌ですが、今日も元気いっぱい自由気ままに悪たれて生きています。


 そして、あと十年。

 88歳まで生きる気・やる気満々の梅ちゃんであります。


 


 



   


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