集中力

その代わり、ノートにつらつらと書く時間が増えた。時折ベッドの上で呆然と考えたり、部屋の中をうろうろしたり、何か考える時間が増えたような印象である。部屋の隅に超小型カメラが設置されてあるので、我々はつぶさに考えることが出来る。被験者Aには大変申し訳ないが、こういった観察を通して、統合失調症の症状を解明し、現代医学の発展を願うばかりである。

 Aは金が足りないことを思い始めた様子であった。そこで、彼に負担のない仕事を依頼して、バイトをさせようと考えた次第である。

 Aの友人に出版関係の仕事に勤めているものがいる模様。そこでその会社の社長に、内訳を話し、無理のない程度の書評のアルバイトを自給千円で雇ってもうことにした。何も知らない友人から、Aが書評のバイトを貰うと、ことごとく仕事をこなし嬉しそうに見えるので、研究者も嬉しがっている。

 しかし、Aはあまりにも本を読みすぎる傾向が見られた。三十時間続けて本を読む日もあり。これは危険な状態になると思い、我々は彼の主治医にこういった危険な兆候が見られると話し、入院させることにした。

 Aには大きな個室を与えるように指示をする。彼が普段聞いているのは、お経だったり、聖歌のようだ。看護師が怖がる様子が見て取れる。Aはその音声を聞きながら、詩を書いていた。主治医にしばらくの間、本を取り上げるように伝えた。また、バイトも休ませた次第である。

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