哲学の始まり

 Aは時折深く考え込む癖を身につけている。その姿が厳かな印象を与える。宗教、哲学、物理学、生物学と多々なる学問を彼の部屋から発見する。Aが病院に行っている間、彼の両親から承諾を得た。西洋から東洋まで、幅広く思想書を読む傾向強し。とても精神的な人間であると、研究者も実感している模様。

 Aはノートを書く癖あり。さらに詩を書くことを好む様子あり。文学賞には出さないみたいである。書物を欲しがるが、障碍者年金から書物を買っている。家事の手伝いはあまりやらない。両親はとても理解を示しており、Aがやりたいようにやらせている状況である。女性の研究者は冷静な目で見ているが、本能的に母性が働く傾向あり。統合失調症の最新のデータを取り寄せ、様々な人間がいるとは重々承知している。Aが生れた時代が違ったなら、彼は崇められた可能性あり。これはフーコーの「狂気の歴史」に記されている。

 しかし、幻聴に悩まされる様子は大変辛そうである。Aは夜を怖がる。非常に敏感である。窓に何者かが見えている様子を見せる。霊能力者は夢と現実の狭間にいると主張。こういった出来事を通して、我々は物質だけでなく、精神の世界もあると実感した。

 AはYoutubeを見て、時折泣く様子あり。戦争のことをよく知ろうとする傾向あり。またスピリチュアルな動画もよく見る。ただ、無心に帰ったのか、時折煙草をのむ。

 チェスに熱中したかと思えば、哲学に没頭し、英語を勉強する。そして時折独語を話すと言った様子である。苦しい様子を見ているうちに、私は観察という言葉を取りやめて、見守ると言った心地になる。精神病に優れた学者を招聘し、この様子を見てもらうと、精神病にしてはひどく冷静であると、そう話した。我々は交代で、Aの様子を見守る。

 Aは陰陽の世界に興味を示した。彼は一人考え事をしながら、喋る。ノートに書いていることを、Aが精神科に通っている間、見させてもらう。陰陽こそ、世界のありようだ。そのようなことが書いてあった。社会悪、色々なことを本から吸収し、何故あるのか、核兵器があるのは、人間の力が増大した結果の陰の部分であると、そう記してあった。非常に興味深い示唆である。我々はノートの写真を撮り、保管した。

 ある女性の研究者が「もうやめにしたい」そう願い出た。私はこの時、人間の良心というものを思った。しかし、私の信条は「知ることを愛する」である。

 段々と症状が治まってきたのか、Aは比較的独語を喋らなくなった。

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