被験者A

原氷

興味深い人間

 非常に興味深い人間がいるために、被験者Aと名付け、観察をするプロジェクトをすすめる。

 Aは精神病を患いながら、冷静沈着であり、とても霊性を帯びたことを放つ、カルテを研究者が精神科医から頂戴し、我々は実行することに決めた。

 まず、パソコンでチェスをやる習慣がある。とても知的な人間で、上達が早い。最初、発達障害の一類だとみなし、この天才的なAの言動をくまなくチェックする。

 時折後ろを見たり、何か会話をしているようだ。我々科学者には理解できない言動のため、霊能力者を呼び、周りに天使がいる可能性があることを言われた。天使がいることが科学的に証明されるかどうかは置いておく。

 Aは男性で、非常に整った顔立ちをしている。学術にも富んでおり、特に哲学書を読むことが分かった。パソコンのカメラから見られる情報では足りないので、携帯から何を検索しているのかも、携帯会社からも情報提供してもらい、色々と調べている具合である。

 Aの家族は比較的安定しているようだ。両親とのコミュニケーションもうまくいっている。辛そうな時、正直我々もつらくなる。特に女性の研究員は冷静な面持ちで見つめているが、彼の病気を完治させたいと、トイレで口をこぼした模様。

 Aのネット検索の情報を調整する。これはGoogleの協力を得た。最新の精神治療を、そこはかとなくトップページに出すように、指示した。Aはいろいろな情報を調べるのを好むみたいだ。情報を得て、それにトライしてみる傾向が強い。行動力のある有能といった印象を受ける。Aは統合失調症である。時折独語を話すが、妙に病的に見えない。研究に参加させた霊能力者は、彼には霊感が備わっているとみなしている。将来、この霊感と言われるものにも、何かしらの科学的根拠を得たい、というのが科学者としての衝動である。精神病とスピリチュアルの融合を体現したような人間である。所作は非常に綺麗である。

 我々はそこはかとなく、両親にコンタクトを取ることに成功した。彼の生い立ちなど様々な情報を得ることに成功した。知能指数を聞いて、チェスの上達の具合に納得がいった次第である。

 Aは若いうちから、歴史に興味を持っていたようだ。戦争を考え、鬱になるまでの感受性あり。考えすぎる傾向あり。精神科医とも話し、Aとの接触を図ることにする。アメリカから、日本人の研究者を招聘し、彼に直接コンタクトを取ることに成功。Aはとても宗教的な人間である、と日本人の研究者は、統合失調症特有の原始体験や、宗教恍惚を覚えていることを報告してきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る