第8話 ドラマ(ガードル視点)
国境であり、大量の鉱石資源が取れた山脈。その姿が消えてしまったことはとりあえず、魔法の暴発ということでなんとか事態は収束に向かっていた。こじつけのため、連日仕事漬けだったガードルは最後の仕事。現地調査に来ていた。現地調査と言っても、することは特にない。ただ、魔法で消し去られた山脈を見て帰る。それだけなのだと思いながら、消え去った山脈の前に来たのだが……。
「いっちにー! いっちにー! いっちにー!」
「「いっちにー! いっちにー! いっちにー!」」
ガードルは、その大きな掛け声を聞いて眉を寄せ眉間に皺をつくり目細めて、何をしているのかと目凝らす。
山脈の奥。明確にアル王国との、国境付近のヤルト草原に訓練をしている数百を超える兵士がいた。兵士は確実に、アル王国のもの。周りにはアル王国の象徴でもある、自由の鳥のエンブレムが書いてある大きなテントがたくさん設置されてある。
「なにこれぇ〜……」
何も聞いていないガードルは、知らないうちになんか物事が進んでいたことに唖然とした。
普通、もし国境付近に大量の兵士が訓練をしていたらアル王国からの圧力かなにかだと思うだろう。だがマークスが、リアリティを求めているドラマを作っていると思っているので頭の中は全く違うものだった。
「ガードル様! あの、アル王国の奴らをあんな野放しにしていいんですか? あれはどう見ても、私たちのことを挑発しています!」
「……まぁ、そう見えるのもわかる。だけど別に奴ら僕たちに向かっては何もしていないだろ? 挑発された程度で拘束したとなると皇帝である僕の看板が汚れてしまうではないか」
「うっ。おっしゃるとおりでございます……」
部下は、ガードルに的確に言い当てられ何も反論することもないので抑え込まれた。
ガードルの周りにいる人たちは、目の前で訓練している兵士に夢中になっていたがガードルだけは、キョロキョロとどこかにあるはずのカメラを探すことに夢中になっていた。別に、挑発されたことに怒っているわけではない。ただ自分たちが敵国役なら、少しぐらい脚本を見せてほしいなと思っているだけ。
「これは、勝手にしてってことなのかな……」
周りにカメラらしきものが見当たらなかったため、ため息混じりに独りでに呟いた。
ガードルはこれでも、作家。なので映像の構成などはわからないが、物語の構成を組むことならピカイチにうまいと自負している。このことは、世界に周知の事実。なのでどれだけカメラを探す素振りをしても出てこないということは、構成を知ってしまったら台無しになってしまう。もしくは、初見の反応がほしいのだろうかとガードルは予想する。
「なるほど。そうきたか……。なら、我々がすることは一つだ!」
「「――――!」」
「今すぐ、動かせる兵士すべてをここに収集させ万全の状態で配備させろ」
「な!? そ、そんなことしてしまったらアル王国との戦争に発展してしまいます!!」
「そんなこと……戦争を経験している僕が、一番わかってることさ。だがこれはしなくてはならないことなんだッ!! 僕は、いや我々はただ何もせずに侵略を受け入れる。そんなこと許すわけ無い。そうだろ!!」
「「うぉおおおおおおおおおお!!!!」」
ガードルの掛け声に、周りにいた部下たちは手を上に突き立て決意を固めた。一人だけさっきと全く別のことを言ってるじゃないか、とおいてけぼりにされている部下もいたのだが、その人物はガードルの爽やかでその裏腹に殺意がむき出しになっている笑顔を見て少し遅れての叫んだ。
奥にいるアル王国の兵士たちは、叫び声を聞いて一斉にガードルたちのほうに振り返ったのだがそれも一瞬。
「いっちにー! いっちにー! いっちにー!」
「「いっちにー! いっちにー! いっちにー!」」
何事もなかったかのように、訓練を再開した。
それを見たガードルは、思っていた反応と違ったがどうせ脚本通りに演じているんだろうと苦笑した。
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