第9話 戦慄(ハイル視点)
戦争を止めたアル王国のことを強く憎み、密かに世界征服を企んでいるハイルとその一行。彼らは、数日もの長い旅路の末ようやく消し去られたと報告があっあ国境付近に到着した。
そうしてこうしてハイルたちは、何故か均等に切られている草原の茂みに体を隠しながら正面で右と左に別れている兵士たちのことを眺めている。
「なぁ……偵察部隊でなんか見ることってできないのか?」
「は、はぃ。ここから先は、強力な魔法の結界に覆われていまして……。おそらくですが見に行こうとしたら、体が焼けちぎれると思います」
「あっ……そんななのか……。じゃあ、偵察部隊は諦めるか」
ハイルは、世界征服を目前に近づくことさえも出来ないという現実を目の当たりにして嘆息をはいた。
偵察部隊が意味をなさない結界。その先。右側で、一列に並んでいるのがおそらくアル王国の兵士。左側で、相手のことを伺うように陣形を組んでいるのがガードル皇帝が配備したであろう兵士だということが予想できる。ハイルにはまずなぜ、両者とも戦うこともせずに向かい合っているのだろう? と疑問に思った。
「おい、こんなところで一体何をしている」
後ろから、女の威圧感がある声が聞こえてきた。
気配を感じなかった。
相手に慌てた様子を見せないことを意識して振り返る。
「何ってそりゃあ……何してるふうに見える?」
「言え」
首元に、ひんやりとした鋭い矢の先が当たった。
女の手にはいつの間にか、弓矢を持っており矢が引かれていていた。
ハイルは慌てずに、女の顔を見る。鋭い狩をする人間のような目をしており、顔には泥のような黒い土が塗りたくられていて女っ気一つない。
見るからに、他人のことなんて死んでも生きていてもどうでもいいような顔だ。
「いや、俺たちはただ通りすがりの旅人でね? たまたまこの国境付近に来たら、兵士さんたちが睨み合ってるからどうしょうもなくて動けなくなっていたんだよ」
「………………そうか。もう一度だけチャンスをやる。一応言っておくが、私にはお前の心臓の鼓動が聞こえてきて嘘なんて通用しないからな」
「――――!!」
ハイルは、心臓の鼓動が聞こえてきて嘘なんて通用しない、という言葉を聞いて戦争時にスパイ摘発として活躍したある一人の女を思い出して戦慄した。その女は、名手の弓使い。どんなところにでも百発百中の腕を持っているとされている。そして今は風の噂でアル王国の四天王、弓矢のトキとして君臨しているということを耳にした気がする。
そこまで考えて、ハイルは今自分はアル王国の人間に殺されそうになっているということをようやく理解できた。
……嘘なんてついたら、俺の首に穴があいてしまう。
「俺は、この戦争のことを聞きつけてやってきた者だ。お前、アル王国のやつだろ? お前たちに有益な情報がある。だから、こんなところで俺のことを殺そうだなんて思うんじゃないぞ?」
「お、お頭!?」
「お前らは黙ってろ。これは、俺とこいつとの交渉だ」
「…………殺すことはやめておく」
首に当てられていた矢先が、離れていったのを確認して肩から力が抜けていった。
有益な情報。おそらく心臓の鼓動で真偽を確認したトキは、この言葉のためだろう。トキが本当だと思った有益な情報。これは、真偽を間違えたわけではなくハイルは本当にそれを知っているからだ。
その情報というのは、ガードル皇帝の好きな食べ物。これが知っている有益な情報だと知られたら、確実にここでハイルたちは全員殺されることになる。
だが、そうはならなかった。
命を賭けた大勝負に勝ったのだ。
「じゃあ、ついてきて」
「……え?」
「テントの中で、ゆっくりその貴方がもっているっていった有益な情報を聞かせてちょうだい」
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