第6話 憎悪(ハイル視点)
アル王国が止めた戦争。その戦争は、ガードル皇帝が治める様々な国の間で行われていたもの。ことの発端は、かなり昔から続いていたのでもう誰がどうして戦争をしていたなんて覚えていない。だが、アイツラに仲間が殺されたから。アイツラに復讐してやる。その心が連鎖してしまい、長く続いた戦争となってしまった。
もちろん、その戦争を止められたことで納得がいっていない人物もいた。その人物は密かに、野望を持っていた。それは世界の先導者。つまりは、世界征服をするというもの。その野望は、戦争が止められるときにはあともう少しで叶うところだったのだが、戦争が止められあっけなく叶うことはなかった。
その人物は戦争を止めたアル王国に強く憎悪を覚えた。長年の野望。死んでいった仲間。数々のことを犠牲にしてきたが、一瞬にして終わりを告げられることになった。
戦争が終わりを告げ、皇帝が生まれアル王国が生まれた。戦争で戦っていた兵士たちには差別なく、皆平等にどの場所で今後の人生を生きるのか決める権利をもらうことになった。だがその人物は、野望が叶わなかったのでその権利を放棄した。権利の破棄。そうすると、世界から生きる場所がなくなり人権もなくなったも同然となる。どこにも生きる場所がなくなったその人物は、仕方なくグリートに身を潜めることにした。
グリートは荒野が続いており、水を探すのにも一苦労する場所。食べ物なんて見つけることができたら、奇跡のようなもの。その人物は、なんとかグリートで同じ境遇になった仲間を見つけオアシスで生き延びることに成功した。そしてその人物は、待つ。いつか、世界征服ができる日まで……。
「お頭ッ!! 大変です!!」
「どうした?」
「先程、偵察部隊からの連絡が来たのですが……。アル王国のやつらが、ガードル皇帝が治める世界で最も貴重とされている鉱石が取れる山脈を跡形もなく消し去ったそうです!!」
「なんだと……!?」
暗くぽたぽた、と天井から地面に一定の速度で水滴が垂れている洞窟の中。お頭と呼ばれた老兵のような人物は報告を聞いて思わず、腰が抜けそうになった。
お頭と呼ばれた人物、ハイルはずっと世界征服をするため身を隠しいつか必ず野望を果たして見せると十年洞以上洞窟の中で生き延びていた。なのでハイルは山脈を跡形もなく消し去ったという報告を聞いて、ようやく野望を果たすことができると笑みを浮かべた。
「…………そうかそうか。で、あの貴重な鉱石が取れる山脈を消し去られてガードルのやつは一体どんな恐ろしいことをアル王国にしようとしてるんだ?」
「そ、それが……偵察部隊の間違いではない限り、皇帝はこの件について動かないそうです」
「……理由は?」
「そこまで、わからないです。ただ、部下らしき人物から何もしないというを盗み聞きしただけでして……。偵察部隊の実力不足です。申し訳ございません!」
ハイルは報告に来たやつが、耳が壊れそうなほど大声で謝ってきたので呆れつつよいよい、となだめる。
ガードル皇帝。ハイルが知っている限り彼は、報復は数倍に返すというような人物。なので、何もしないということが理解しづらかった。
「もう一つ、ガードル皇帝とアル王国の報告がございます」
「言ってみろ」
「はっ。アル王国は、ガードル皇帝が治める国に果物の輸出を打ち切ったとのことです」
「理由は?」
「これは、電話を盗聴してわかったことなのですが、どうやら以前行われたガードル皇帝とマークス国王との会談。そのときになにやら揉め事があったようです」
「なるほど。揉め事か……」
報告をしている部下は理由がわからなかった先程とは真逆に、饒舌に説明した。そんな中、ハイルはまたもや理解しづらい説明をされて頭の中がこんがらがっていた。
ガードル皇帝と、マークス国王が会談したことは別の者からの報告で聞いているので知っている。だがハイルが耳にしたのは、何事もなく会談が終了したとのこと。報告が食い違っているのだ。
「その揉め事って、具体的にどういうことなんだ?」
「具体的なことは話していませんでしたが、盗聴したときの話の内容から、ガードル皇帝がなにかしらマークス国王に嫌がらせをしたものだと推測いたします」
「推測か……」
「はい。嫌がらせをしたものだというのは推測ですが、ガードル皇帝が何かしらしてマークス国王の逆鱗に触れたのだということは確実です」
部下はまっすぐ、事実をハイルに伝えた。
ハイルは仲が良いとされているガードルとマークスの間に、亀裂が入っていることに驚いた。だがそれと同時に、これはチャンスなのではないかとも思った。仲に亀裂が入っていて、事実としてマークスはあのガードルに怒っている。そんなの世界征服をするのに、滅多にないチャンスなのだ。
「全部隊、国境でもあるヤルト草原に前進させろ」
「はっ!」
「私も現地に行く」
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