第4話 山ぽか
アル王国には四人の優れた才をもつ者のことを四天王と呼ぶ。剣のジュリ、魔法のミケ、力のバッジ、弓矢のトキ。彼女らは世界でもトップクラスの戦いの才をもっており、アル王国の番人のように堂々と威厳ある姿で国王のことを守っている。
マークスはそんな四天王のことを稽古すると嘘をついて、外に空気を吸いに来ていた。来ていた場所は、アル王国の国境近くヤルト草原。ここには近くに何もなく、あたり一面が真緑の草。遠くにガードルの管轄の国境となる、山の影がある。
「わーい! わーい! ミケの紙飛行機のほうが長く飛んだぁ〜!!」
「いえ。どう見たって、私のほうが長く飛びました。人のものをあたかも自分のもののようにするのやめなさい」
「はぁ!? ジュリこそ自分のものにしようとするのやめてよ!!」
ジュリとミケは、対抗心がありどんなときでも喧嘩をしている。一方でバッジとトキは、そんな二人のことを遠くから見る保護者的なポジション。四天王としての能力は、この二人のほうが高い。
「ふっ、これだからおこちゃまは……」
「な、な、ななぬ〜!! ジュリ、あなた今ミケに向かっておこちゃまなどと抜かしましたね!! これは戦争です。ジュリなんて剣を振り回すことしかできない、野蛮な四天王なんですからミケがお仕置きしてあげます!!」
「やってみなさい。お、こ、ちゃ、ま?」
「ふがー!!」
ミケは、安っぽい挑発に堪忍袋の緒が切れたのか、怒っているときの猫のような鳴き声を真似しながらジュリに襲いかかった。襲っているのだが、ジュリの体は倒れることはなかった。ただただミケはぽかほかとちっちゃい手で、ジュリの体を叩いているだけだった。
さすがに止めないといけないよな?
「はいはい。そこらへんにしようね?」
「あっ、マークス様……」
ミケは主君であるマークスに止められたので、特に抵抗することなくジュリから離れていった。そしてささっと、マークスの背中に隠れてジュリのことを睨めつけた。
「ジュリが悪いんです! ミケの方が、ミケの方が紙飛行機飛んだのに勝手に人のものにして……」
「マークス様。騙されてはいけません。ミケはいつもいつも自分のものにして、マークス様に褒められてきました。何度私が、血と涙を流してこなした仕事の手柄を奪われたことか……!」
ジュリはよほどのことがあって、悔しいのか右手の拳を握りしめながら熱弁してきた。その目には薄っすらと、涙のような輝きをしている粒が見える。
……これは、どうにかして二人の仲を取り合わないといけないな。
「あぁ〜えっと。……それじゃあ、これからお互いに自分が一番自慢できることをして感想を言い合うとかどうかな?」
「なるほど……結局、どちらが一番優れているのか。それを決めようとそういうことですね?」
「ふっふっふっ……ミケは、ジュリなんかに負けることなんて万が一にもないのです!」
「……え?」
マークスは二人が認めあってほしくて言ったのだが、逆に対抗心が強くなってしまった。
二人はお互いに睨み合っていて、その間から稲妻のような音が聞こえるほど気迫に満ち溢れている。
「では、私から先にやります」
そう言って、先に前に出ていったのはジュリ。腰にかけていた剣を鞘から抜き取ったときにでる殺気は、いつ見ても肌をくすぶらせる。
彼女らが四天王などと言って、世界からアル王国のことを守っているのはただ力が強いだけではない。もともとは、戦争で数百数千人もの人を殺して回っていた歩く災害。なぜ、そんな彼女らがマークスのことを好いて四天王になったのかはマークス自身もよくわからない。
敵対しないんなら、なんでもいいんだけど……。
「いきます」
ジュリは、なにもない草原を前にして姿勢を低くした。動いたら殺されてしまうと感じてしまうほど殺気がマークスのことを襲う。
「終わりました」
「ふっ……なかなかやりますね」
鞘に剣を収め、自慢げな顔をしながら戻ってきた。
マークスには、何をしたのか全く理解できなかった。だが、ミケが称賛しているのを聞いて見えなかっただけなのだろうかと首を傾げる。首を傾げたとき、違和感に気がついた。目の前にあった、先がまばらであるはずの草が均一に整えられていたから。
「すげっ」
マークスが驚いていると、上からなにやら緑色のものが落ちてきた。それは雨のように頭から降ってきて、少し経ったらなくなった。落ち着いて頭に乗っかっているのを手に取るとそこにあったのは切られている草。その時ようやくマークスは、ジュリが一瞬にしてあたり一面に広がっていた草原を切ったのだとわかった。
「次はミケの番です!」
ミケはるんるん! と杖を片手に、楽しそうにスキップしながら前に出ていった。
その様子を見てマークスはどこか嫌な予感がしていた。マークスは、ジュリのときに驚いたようにまだ国王となって四天王が戦うところなど見たことがない。なので、剣のジュリでもあたり一面の草を斬ってしまうほどの力を持っていると考えると一番ヤバそうな魔法のミケという言葉を聞くと、嫌な予感がしてたまらないのだ。
そんなマークスのことをおいて、またもや空気が変わった。今度は、殺気ではなく威圧のようなもの。殺されてしまうとは思わないのだが、確実に圧をかけられているのだというのは感じて取れた。
そして、ミケは杖を薄っすらと見える山陰にに突き出した。
「超最強アルティメットスーパースーパーなんたらこんたら砲!!」
ミケがなにかへんてこなことを言った瞬間、杖を突き出したほうに光り輝いている大きなまん丸の球体が出来上がった。
「――ドゴゴゴゴ……!!」
それはどこか恐ろしい音をたてながら浮いている。
「そりゃ!!」
まん丸の球体は、ミケの掛け声と同時にものすごいスピードで一直線に飛んでいった。先にあるのは国境となっている山。
ミケが楽しそうに魔法を放った一方マークスは、嫌な予感が当たってしまうのかと体から冷や汗が止まらなくなっている。
「――――ドッカァンッ!!」
山に当たってから少し遅れて、音と風がきた。
三人はおとと、と風に負けて体が地面に付きそうになったがなんとか耐えた。
「ふぅ〜ん。まぁ、あなたは魔法で私が剣。派手なのはもちろん魔法の方ね」
「えっへん!」
「……マークス様? 私とミケ。さっきのを見て、どっちの方が優れていましたか?」
「え?」
マークスは意表を突かれ、裏声のようなオネエのような声が出てしまった。
どちらが優れているのか? そんなことを聞かれても、剣も魔法も全くできないマークスには判別できないのである。
「どっちもすごかったよ? あんなスゴ技、俺なんか絶対できないし見てるだけでも楽しかった!」
「そ、そうですか? えへへ……。そんな私の剣を見てみて楽しかっただなんて……。えへへ……」
「ミケのあれ、スゴ技……。絶対できない……。楽しかった……。マークス様……。うひひ……」
二人はマークスの言葉がよほど嬉しかったのか、お互いに上の空のような顔をしながら、体を左右に揺らした。
……まぁこれで、仲直りしたのかな?
マークスは、もうこれ以上なにかすると面倒くさそうなのでそういうことにしておいた。そして、そんなことよりもとさっきミケの魔法が直撃してしまった山の方を見る。
「ありゃ〜……」
薄っすらと見える壁のような山陰は、ぽっかりと丸い穴が空いてしまっている。マークスはやっぱりこうなってたのかと、ため息をつく。ミケが穴を空けた山は、この前会談したときに出てきたなにか大切な山だったかもしれないとそこまで思いだしたのだが、思い出せなさそうなのでやめた。
そんなことより、ガードルに知らせないとと思い国に戻って電話をしようと考えた。
「なんかキリいいし、今日はここらへんで国に戻らない?」
「えぇ〜!! ミケ、もっとここで魔法打って遊びたいですぅ〜」
「私も、最近腕が鈍ってきている気がするので山でも斬って昔懐かしの感覚を戻したいです」
「いや、うん。それなら国に戻ってからでもできるでしょ? うちだったら山なんていくらでも斬っていいから、ここの山を斬るのはやめておかない?」
必死な訴えに、二人はどうしてもここで暴れたいのかほっぺたをぷくぅ〜、とふくませながら不満をあらわにしていた。
その顔には弱いマークスは、ここで暴れたら確実に隣国に迷惑かかっちゃうけどいいかな? などと思いかけていた。
「マークス様ぁ〜!! 少し遅れましたが、このジリル・クーバ。身をこにしながら、皇帝失脚のためお供させてもらいます!」
「は?」
マークスは、クーバがいきなり皇帝失脚だとか言いながら走ってきたので意味がわからなかった。
だがそんなことよりも、と今ミケがしてしまったことを早く謝罪しなければと頭の中がパンパンになっていたのですぐ忘れた。
「そんなことよりも、ガードル皇帝に電話するぞ」
「いえ電話ならここに来る前、私がしておきました!」
「……本当か?」
「はい。あなた様が言いたいこと、全て私が代弁させてもらいましたので安心してください」
「そ、そうかそれならまぁ、いいんだけど……」
マークスは、クーバがまるで未来予知ようなことをしてきたと言ったのでわけワカメになっていた。
だが同時に、信用しているクーバが代弁してくれて、安心していいのならガードルが山を壊すことを了承してくれたことになる。
「マークス様! ミケたち、ここでもっと遊んでもいいんですか?」
「……うん。好きにしていいよ」
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