第3話 宣戦布告とも聞こえる電話(ガードル視点)



「どういうことだ?」


 皇帝、ガ・ガードルは部下からの報告を受けて神妙な顔をしながら聞き返した。


「はっ。先程書面にて、アル王国から輸入していた果物類がすべて一方的に打ち切られました」

「それは本当なんだろうな? 変なテロ組織からの誤報だとかそういうのじゃないよな?」

「はい。書面には現アル王国国王、アル・マークスの指紋が押されておりした。偽装なのかと、魔法にて調べましたがなにも出てこず。正真正銘、本物の書面であります」

「そうか……」

  

 ガードルの口から、それ以上の言葉が出なくなった。マークスとは兄弟だと思っていたので、裏切られたようなそんな気分でどうすればいいのかわからなくなっていた。

 なぜ果物の輸入が打ち止められたのか。ガードルの心当たりがあるのだとしたら、以前の会談。そのとき、マークスが大好物のいちごを食べて口喧嘩になってしまったこと。だけどそれは結局仲直りしたのだと、ガードルは思い出して余計なぜ果物の輸入を打ち止められたのかわからなくなった。


「書面には、輸入の打ち止め以外になにか書いてなかったのか? 肝心の理由だったり」

「か、書かれておりました。ですが……」

「なんだ?」


 部下がなにか都合が悪いのか、言い淀んだことなど無視して理由を知りたいので問い詰めた。


「我が国はガ・ガードルのことを決して許すことはない。だそうです」

「………………」


 ガードルは、これを聞く限り果物の輸入ができなくなった理由がまるで自分にあるように思えて仕方がなかった。

 皇帝であるガードルのことを名指しして、許すことができないというとアル王国はかなりの数の国を敵に回することになる。おそらくこのことを公表したときには、アル王国にかなりの経済制裁がくだされることになるはず。そんなこと、兄弟同然のマークスの国にはできないとガードルは考える。

 ……これは、直接聞かないといけないな。


「えっと、マークスマークス……」

「何をなされてるですか?」

「ん? 電話さ電話。マークスはついこの間、一緒に楽しく会談したんだぞ? 僕のことを許すことができないなんて言うわけ無いだろ。どうせその指紋も、マークスの部下が勝手に押したもんだろ」

「は、はぁ……?」


 部下は、ガードルのまくし立てるような言葉を理解できないのか首を横に曲げた。

 許すことができない。それが、ガードルにとって意味がわからない言葉。

 ……まぁ、聞けばわかるでしょ。

 ガードルは、そんな楽観的なことを考えながら受話器を耳に当ててマークスの番号を入力した。


「――ぷるるるる。――ぷるるるる。――ぷるるるる」

「出ませんね……」

「まぁ、マークスは結構自己中なところがあるからな。もう少し待てばあいつの部下が受話器を渡してくれるだろ」

 

 それから5分。


「――ぷるるるる。――ぷるるるる。――ぷるるるる。――ぷるるるる」


 電話に出る気配がなく、ずっと受信しているときの音しか聞こえてこない。ガードルは普段から動かないので受話器を持っている手が攣りそうになっている。


『――ガチャ。はい。アル王国です』


 ようやく受話器が取られ、男の声が聞こえてきた。

 だが、ガードルはその声を聞いて疑問に思う。この声はマークスのものではないからだ。


「僕は、皇帝ガ・ガードル。マークスと変わってくれないか? 貴国との果物の輸入が一方的に打ち止められたことについて、意見交換がしたい」

『……それは、できない相談だ。今、マークス様は四天王様たちのことを稽古しておられる。そもそもガードル。あなたなどと、マークス様が話すことが可能のわけがないだろう』


 ガードルは、誰とも知らないアル王国の人間に上から目線に言われ苛立ちを覚えた。今すぐに殴りにいきたい衝動を抑えて、冷静に話を進める。


「あなたは?」

『失礼。私はアル王国、参謀ジリル・クーバ。あなたが会談時にしたマークス様への非礼を謝らなかったから、我が国はあなたと敵対することになったのだ』


 名前を聞いて驚いた。

 ジリル・クーバ。その名前は、皇帝であるガードルの耳に入ってきている名。クーバは、どんなときでも最善の行動をして主君を導くとして数多の成功を収めてきたとしている。今彼が、アル王国の参謀になっているということは耳に入ってきていなかった。


 敵対。そんなこと、よりにもよって戦争を止めてくれたアル王国となんてしたくない。世界は、平和を望んでいる。こんなの間違っている。ガードルはそう思いながらも、あの最悪の事態を予想することに長けているクーバが言っているのだと思うと余計間違いなのだと思う。


「我々は、アル王国と敵対などしたくない。世界平和。それを望んでいるのは、そちらも同じだろう?」

『あぁ。同じだとも』

「だったら……」

『だが、避けることはできない。いいか? これは、お前が始めたことなんだぞ? お前がマークス様に早く謝れば、こんなことにはなっていなかったんだぞ』

「なんのことだ?」

『いいか。我が国の敵対は、あなたからのものなんだ。今更、取り消すなど言えまい。マークス様は、今までにないほどお怒りになっている。もう、遅い。――ガチャ』

 

 電話は一方的に切られた。

 声が聞こえなくなった受話器を呆然と眺めているガードルは、苦渋の決断を決めなければならなかった。ガードルには、なぜ自分のせいで敵対することになったのか検討もつかない。だが、参謀であるクーバの声を聞く限りもう敵対は避けられない事態のように思えていた。


「ガードル様。いかがなさいましたか?」

「いや、なんでもない。…………とりあえず果物は、別の国々から。民に気づかれぬよういつも通り輸入せよ」

「はっ! 仰せのままに」

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