後日談:私を見つけてくれる光
「そういえば、理々夢ちゃんの力って元に戻ったの?」
ふと、思い出したように私に聞いてきたのは相良さんだ。
今日は相良さんの家に集まって全員で夕食を食べていた。その夕食を食べ終えた団欒の一時で、この質問が投げかけられた訳だ。
「相良さん、戻ったって?」
「理々夢ちゃんは今まで幻を操る力を使ってたでしょう? でも、前の戦いの時に昔の力を取り戻したように見えて。忙しかったから確認する暇もなかったけど」
「完全に元通りという訳ではありませんが、前のような使い方が出来ますよ」
相良さんが言っているのは、御嘉と共に姿を変えたイクリプスの形態についてだろう。
どうしてあんな現象が起きたのかははっきりしていないけれど、私と御嘉の間で共鳴のような現象が起きたのではないかと私は思っている。
原因も再現性もわからない以上、あれはそういうものとしか受け止めるしかないのが現状だ。
私たちの力は魂に由来する。そして、魂というのはこの地球でも、私たちがいた世界でも解明しきれている訳ではない。
そういう不思議な力がある。今はその程度の認識に留めておくしかない。解明するなら女神であるイヴリースを調べれば何かわかるかもしれないけれど、実行出来ないしするつもりもない。
「聖女であった頃の私は女神を心から信仰していたから神の奇跡を起こせていました。ネクローシスになってからは女神を疑うようになっていたので幻を操る力に変質していましたが、今は女神による力を上書きするような形で行使出来るようです」
「上書きねぇ。それってあの形態じゃないと出来ないの?」
「そうですね。一応、普通に変身した姿でも使えますが、出力が低いです」
私の変化が影響したのか、普通に変身した姿でもイクリプスの力を使うことが出来る。
けれど、その力はイクリプスの半分も出ていれば良いといった程だ。だからここにいる魔法少女たちの力を上書きしようとしても、かなり抵抗されてしまうと予測出来る。
御嘉、もといエルシャインの力をコピーする力も使えるけれど、通常の変身だともっと出力が弱くなってしまう。これに関しては素の体力が足りないからと御嘉から指摘を受けているけれど。
私は頭脳派なんですよ、肉体派じゃないんです。
「そうなのね。まぁ、でも良かったわ。元の力が戻って来たと思えばおめでたいことじゃない。聖女に復帰する?」
「聖女はもう懲り懲りですよ」
「ご主人様は聖女だったんですか?」
リュコスと戯れていた文恵さんが私に視線を向けて小首を傾げた。文恵さんが首を傾げるのに合わせてリュコスも首を傾げている。
「一応、肩書きでは聖女と呼ばれていましたね。私たちの世界での話ですが」
「聖女って言うと、怪我を治したり、浄化したりするイメージなんですけど、そういったお仕事をしてたんですか?」
「えぇ、概ねその認識で構いませんよ」
私の力が発揮されたのは戦場か、治療の現場であったけれども。
そんな血生臭い話を彼女たちに聞かせる必要はないだろう。魔法少女ではあっても、彼女たちは戦争をしている訳ではないのだから。
「そうだ! 理々夢ちゃんの力が戻ったのなら、飲み過ぎでお疲れ気味の内臓を癒して貰えるということなんじゃ!?」
「瑪衣さん、相良さんがツボ押しのマッサージをご所望ですよ」
「失礼します」
「失礼しなくていいわよ! 冗談、冗談だから! ちょっ、イタタタタタタッ!? 無理無理ッ!!」
瑪衣さんが素早く相良さんの足を手に取り、ツボ押しのマッサージを始める。悶絶して暴れ回る相良さんを、ぼんやりしたままの真珠さんがジッと見つめている。
その光景を面白がったのか、自分も一緒に騒ぐ! と言わんばかりにリュコスが相良さんを押し倒すようにのしかかって、顔をベロベロと舐め始める。
慌てた文恵さんがリュコスを引き剥がそうとしているけれど、皆がそれぞれ思うままに動いているから抜け出せないでいる。
そんな騒がしい光景を見ていると、御嘉が呆れたように息を吐く。けれど、その表情は穏やかな笑みだった。
「あれが元女王様で、私たちのボスなんだよね……」
「相良さんに関してはいつものことですから」
「そうだね。だから、理々夢だって別に聖女じゃなくてもいいよね」
「はい?」
思わぬ言葉を聞いて、私は思わず御嘉へと視線を向ける。
御嘉は膝を抱え込むように座りながら、上目遣いで私を見上げる。
「過去は過去だよ。思い出したくないなら、それでいいでしょ」
「……気を遣わせましたか?」
「たまに、理々夢が私たちを遠くにいるように見るからね。なんとなく言葉を選んでるのかな、って思っただけだよ」
「……正解です。御嘉にはお手上げですね」
よく私のことを見ているのだな、と思ってしまった。
過去は過去。そう言ってくれることがどれだけ救いになるのか御嘉はわかっているんだろうか。
私にとって過去はあまり思い出したくないものだ。幸せだったことも、辛かったことも、絶望したことも、今なら辛いのだと素直に思える。
聖女と呼ばれると、どうしても思い出してしまうから。だから、そう呼ばれることが嫌だったんだということにも気付けた。
「御嘉は、いつだって私を見つけてくれますね」
「? 何ソレ、どういう意味?」
「そのままの意味ですよ」
月は、自分から輝くことが出来ない。
貴方という光を浴びて、私は闇の中から自分を見つけ出せる。
だから何度だって、貴方と出会えたこの幸運を抱き締めたいと思える。
――ありがとう、御嘉。心から愛しています、私の光。
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