第18話 全面戦争…?(2)

 久々にサカキに会ったのはその最中だった。


 よく喧嘩しているレディースのチームが出向いてきた、との速報を受け、生徒会を筆頭に階段を降りていく。


「女同士、久々で腕がなりますね」

「そうね、結構楽しみ」


 セリが関節をポキポキ鳴らした。

 最近は本当に男との喧嘩ばかりだった。全員少しワクワクしていたはずだ。


 校舎を出たところで、私たちの足は止まった。

 背を向けていたシルエットがのんびりこちらを振り返る。




「あれ、もしかしてナズナ、お前の客だった?」




 嘲笑を含んだ声色。

 レディースチームの総長がすっかりのびてしまっていた。


「道塞いで邪魔だったから、つい。でもこんなに弱いんだから、お前の客なわけないか」


 完全に喧嘩を売られている。

 私は今にも飛びかかりそうな周りを制し、1人でサカキの真ん前まで進み出た。


「お手煩わせ失礼。なんならもう一戦どう?」

「やめとく、弱いし」


 ピキッとこめかみの血管が切れそうになった。

 他の人の言葉は全く気にならないが、一度負けた相手に言われるとかなり堪える。


「せいぜいこういう女の子たちと喧嘩ごっこしとけば?」


 サカキは薄ら笑いを浮かべて去って行った。

 発狂しそうだった。

 すぐにでも同様の仕返しをしなければ気が済まない。




 そうして私はとある倉庫の大きなソファーに座っていた。

 ガヤガヤと騒がしくなってきた外に気付き、双子が悪戯っぽく笑う。


「なんでお前らがここにいンだよ」


 文句を垂れながら現れた隆司、続いて柊、スズラン、誠、そして



「遅かったねサカキ、そんなにたくさん引き連れてどうしたの?」



 私は足を組みながら、黒城の十数人にニッコリ微笑みかけた。

 サカキは私が足置きに使っていたこの倉庫の総長に視線を落とす。


「暇つぶしだったんだけど、サカキの遊び相手だったらしいね」


 嘘である。

 死に物狂いで黒城との抗争相手を探し続け、やっと見つけたこいつらだった。

 舞い上がっていた私たちは、ものの数分で暴走族を一つ壊滅させてしまった。


 私は立ち上がり、足置きを乗り越えてサカキの元へと歩みを進める。


「女の子の私たちだって5人で余裕だったのに、心配性だなぁもう」


 サカキは何も言わなかった。

 つまらん奴め、せいぜい心の中で泣き喚け。


 サカキの横を通り過ぎようとしたときだった。

 足に何かが引っかかり、私はビターンと派手に転けた。

 ナズナさんっと後ろから声が飛んでくる。


 サカキに引っ掛けられたと理解するまでにそれほど時間は掛からなかった。

 見上げると、口元に手を当てて嬉しそうに笑うサカキがいる。


「足が長くてつい。チビには足元くらいは見えてるのかと思ってたけど…」

「もう許さんぶち殺してやる!!」


 私がサカキを一発殴ると、夏と秋が雄叫びを上げて隆司に殴りかかりに行った。


「せめて1人ずつ来い!!」


 隆司が絶叫しているのが見える。柊が主を助けようと必死に3人を追いかけていた。


 前回のぼんやりとした記憶の中では、私とサカキはお互いになかなか当てることができなかったが、今回は違う。

 私もたった今頬を殴られた。


 お互いの強さを確かめ合うような変な殴り合いだった。

 私がもう一度サカキを殴ると、サカキは唇から血を流しながらもニヤリと笑ってクイッと手を動かした。


「ちゃんと殴ってみろよ」

「こっちの台詞だけどな!」


 私がもう一度殴ろうとしたときだった。

 遠くで、でも確かにパトカーの音が聞こえる。


 私とサカキは顔を見合わせ、一斉に走り出した。

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