第13話 昼下がりの体育館(2)
「薄々気づいてはいたんだけどさ、あんた馬鹿だね」
ナズナがくすくす笑い出した。
「今日はセリの名誉挽回戦のつもりできたの。そもそも黒城でも一番になれないあんたと、私がタイマン張れると思うわけ?」
「こいつ、舐めやがって…!」
「やめろハル」
今にも飛びかかりそうなハルを片手で制し、ナズナのことを真っ直ぐ見る。
「あの噂は本当らしいな」
ナズナはまだ少し笑いながら、ん?と俺の方を向く。
「こういうのは副会長に全部任せるんだろ?実際お前がガチな場で喧嘩してるところって、誰が見たことあんだよ」
ナズナは静かに笑みを浮かべている。
もしかしたら本当にアカナより弱いかもしれない。
そうだとしても、男女間での示しをつける為には、やはりナズナを引っ張り出す必要がある。
「認めろよ。本当は自分より、副会長の方が強いんだって…」
「それ以上言ってみろ!」
飛びかかってきそうになったのはナズナではない。
副会長のアカナだ。
「アカナさんっ!」
「ナズナさんに怒られますよ!」
双子が必死になってアカナを止めにかかる。
「セリ、またやる気?」
ナズナのその一言で、アカナの動きが止まった。
続けて俺の方をしっかり見てナズナが話し出した。
「そうね、たしかに私はセリより弱いかもしれない」
「ナズナさんッ」
アカナはとにかくそれが気に入らないらしい。
ナズナはうんざりしたような表情を浮かべ、ちょっとごめんと俺に笑いかけてから、くるりとアカナの方を振り返った。
「セリ、次やったら二度と一緒にラーメン行かないからね」
「…!」
かなり効いたらしい。
一気に静かになったアカナと満足そうなナズナ。
「誠くん、耳かっぽじってよく聞きな」
ナズナは満足げにニコニコ笑いながら話を続ける。
「私の強さと生徒会長の名は、部外者には何も関係ないね。私がこの場の誰より弱かったとしても、赤丸の生徒会長は私」
笑っているはずなのに、冷たい目と声。
「私とちゃんと喧嘩したいなら、そっちも総長だすのが道理ね。公私混合甚だしい、弁えないと本気で怒るよ」
ナズナの暗い声色に、一瞬にして場が凍りつく。
さて、とナズナが今度は明るく手を叩いた。
「理解できたんなら、隆司、セリ、そろそろ始めよっか」
ハルはちらりと俺の反応を確認してきた。
俺は目を瞑って首を横に振った。お手上げだ。
そりゃここでナズナを潰せるのがベストだが、あんなド正論かまされたら流石に何も言えない。
ハルが頭を掻き毟った。
そうして結局対峙しているのはハルとアカナなわけだ。
空気が緊張でビリビリと震え出したとき、2人とも一気に動き出した。
似てる。
頭脳なしのパワープレイ。殴っては殴り返し、蹴っては蹴り返し。
さすが男と勘違いされ、いくつもの族から声がかかった女。
ハルがしっかりのしたら、こいつもらってもいいんじゃないか。
そう思うほどの重い一撃。
「アカナさんやっちまえ!」
ギャラリーからけたたましい声が飛んできた。見上げれば、叫んだ女の周囲が特に殺気立っている。
アカナ直属の奴らだろう。
赤丸は絶対服従の黒城とは違い、下克上制度だ。
絶対的存在が生徒会であるのは間違いないが、あくまで力至上主義。強い人間には軍団のようなものが存在する場合がある。
アカナの軍団は特に勢力があると聞く。
逆にナズナに軍団があるような話は聞いたことがない。
ふとナズナを見れば、呑気に一ノ瀬姉妹とと手を叩いていた。
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