第12話 昼下がりの体育館

 昼休み、体育館は既に熱気が充満していた。

 どこから噂が漏れたのか、2階はギャラリーで満杯だ。


 肝心な生徒会は、まだ来ていない。



「クソ、おせぇ」


 ハルの顔に苛立ちが見える。

 そもそも今日生徒会を潰しに行こうと提案しだしたのはハルだ。


「焦らないでください隆司さん」


 僕きちんと約束取り付けてきましたから、とスズランが胸を張る。

 意外にもすんなり受け入れられたもんだから、スズランのあざとさは女にも通用するのかと一同感服した。


「ついにあの生徒会長に喧嘩売る日がきたな」

「でも実際は、副会長が強いんじゃないかって噂ありますよね」


「アカナだろ、実際シロをボロッカスにやったのもあいつだしな」

「うるさい」


 シロは不機嫌そうに顔を顰めた。白く陶器のような肌にはまだ無数の傷跡が残っている。

 ナズナ弱い説の噂でアカナを揶揄い、暴言吐き捨てて背を向けたところで100倍返しにされたらしい。


「あ、来ました」


 スズランが体育館の入口を振り返り、目を細めた。

 体育館中に奴らの靴音が響く。ピリピリと空気が締まりだしてきた。


 不意にナズナが女側のギャラリーを見上げて、ニヤっと笑う。

 途端に空気がざわついた。



「ナズナさん」「まさか本当に来るなんて」「ナズナさんだ」



 げんなりした。

 普通の女なら俺たちがいるだけで大騒ぎなのに、ここではそうもいかない。


 俺たちが体育館の真ん中で対峙すると、ざわめき立っていた体育館が水打ったように静まり返る。


「待たせんなよクソ女が」


 ハルはわかりやすく嫌悪感をあらわにしている。

 対するナズナは冷静だ。肩を竦めて少し笑った。


「そんなカッカしないでよ、昼休みは長いんだから」


 今にも殴りかかりそうなハルを気をつけて見ていると、目の前で一ノ瀬姉妹がぴょんぴょん跳ねた。


「それでそれで、どんなルール?」

「もう殴っていいの?好きなだけ?ここにいる全員?上のも全部?」


「馬鹿野郎、ちょっとは落ち着け」


 そう咎めたのは、副会長アカナだ。

 ナズナの後ろ隣にくっついている水上嬢は、どういうわけかスズランのことをじっと睨んでいる。


「ルールと言いますか、全員でやりあうのは収集つかなくなるんで、普通にタイマンです」


 スズランが説明すると、一気に一ノ瀬姉妹の顔が曇る。


「ナズナさん、これつまんないです」

「帰りたくなってきました」


 ナズナは2人をまあまあと宥め、ぐるりとあたりを見回した。


「見た感じ総長いないけど、そっちは誰が出るの?」


 ナズナの質問に、ハルが自ら進み出る。


「俺だ」

「あ、君ね」


 だってよセリ、とナズナが振り返る。

 はい、とアカナが進み出た。


「あ?お前は出ねェのかよ」


 てっきりナズナをぶん殴れると思っていたであろうハルが声を荒げた。

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