第11話 招待状

 それから3日間は平和だった。

 多めに見てくれたのかと安堵していたが、そういうわけでもなかったようだ。


 いつも通り生徒会室でブーム、ジェンガをしている時だった。

 コンコンとドアを叩く音がして、私は思わず首を傾げた。


 ノックできるような絶滅危惧種が、この学校にも存在していたのか。


「はーい」


 返事をしてすぐ、ドアが控えめに開いた。

 ぴょこっと顔を覗かせたのは、ふわふわの黒髪と、鞠のピアスを揺らす可愛らしい男の子。


「こんにちは」


 ニコニコ笑うその子に、夏と秋が全力でガンたれている。

 私が悲しくなるから、その顔やめて。


「はじめまして、ナズナさん」

「こんにちは、蘭くん」


 鈴木蘭。通称スズラン。

 小柄で可愛い見た目と喧嘩っ早いギャップが、年上によく可愛がられる理由だと聞く。


 礼儀正しい子は嫌いじゃない。

 私もニコニコ笑い返した。


「僕のこともご存知なんですね」

「そりゃ合併校だもの。仲良くしてね」


 スズランは首を傾げて笑った。


「あのナズナさんにそんなこと言っていただけるなんて、感激です」


 スズランって呼んでくださいなんて可愛いことも付け足してくる。

 セリの貧乏揺すりが始まった。恐らくあの胡散臭い笑顔にうんざりしているんだろう。

 セリはぶりっ子が嫌いなのだ。



「それで、私に何か?」

「あの、今日の昼休み、体育館でお会いできませんか?生徒会の皆さんと、僕達とで」

「うーん…」


 喧嘩の招待状が届いてしまった。

 私は椅子の背もたれに寄りかかり、ぐるーっと回った。


「ちょっと、控えたいところだなぁ」

「そんなこと言わずに」


 この子はどこまで笑えるんだろう。

 ギリギリまで遊んでみたいし、1回くらいちゃんと泣かせてみたいものだ。


「隆司さんに絶対に連れてこいって頼まれてて、僕怒られてしまいます」


 隆司、あのいかにも突っ込みたいタイプの。

 スズランが困った表情でラコの方を見た。


「櫻子、ナズナさんの説得を…」

「気安く呼ぶな、反吐が出る」


「こら、1年生同士喧嘩しないの」


 全員スズランに可愛さ力が劣っていて、どんどん悲しくなってくる。


「ナズナさん、無駄足かと」


 ラコは不機嫌そうに私を見上げた。



「ナズナさんナズナさん!!私は絶対…」

「聞いてない」


 私は夏と秋に開いた片手を突き出した。


「気晴らしに殴りたい放題ですとか言うんでしょどうせ」

「「………」」

「図星なんだ…」


 ガックリ肩を落とすと、ナズナさん、とセリに名前を呼ばれた。


「前回のは私の落ち度です。しっかりケリつけるためにも、私に参加させてください」

「そうねぇ、卑怯で片付けられたらたまったもんじゃないもんねェ」


 揶揄うように笑うと、首折れるかと思いました、とセリが不貞腐れた。

 セリの名誉挽回のためにも、早めにお昼ご飯食べてやろうかな。


「わかった、いいよ。行ってあげる」

「本当ですか、ありがとうございますっ!」



 スズランは嬉しそうに手を叩き、またね、とラコに手を振った。


「失せろ」

「ラコ」

「だって…」


「待ってますからね〜!櫻子、今度僕とタイマンしようね!」


 スズランは丁寧にお辞儀をして、また静かに部屋を出て行った。

 ラコはわかりやすく不機嫌になった。



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