第8話 衝突
親の仇とでも言いたげな目を向け、怒号は決しておさまらず、なんなら罵詈雑言が飛んでくる。
不愉快。
心ではそうでも、私は大人だから誰彼構わず殴りはしない。
だがしかし頭の中くらい自由にさせてもらいたい。
頭の中だもん、貴様ら八つ裂きにしてやる。
八つならまだいい方か、なんなら十くらいに…。
「ナズナさん!」
ハッと我に返ると、ラコが大きな目をさらに丸くしていた。
慌てて目の前の光景に焦点を合わせると
「立てよ」
返り血で制服を汚したセリが凄んでいた。
胸ぐらを掴まれている男はぐったり動かない。これは不味い、直感的にそう感じる血の量だった。
「セリ」
「まだ行けンだろ、立てって」
「…セリ!」
振りかぶったセリを見て思わず声を荒げると、キッとした目つきのセリが私を振り返った。
え、怖。あんた喧嘩中そんな怖い顔すんの?
私を確認して、セリはハッとしていつもの表情に戻っていった。
「…なずな、さん」
再び地面に崩れ落ちた男に、すかさずラコが駆け寄る。
「…黒城の柊です、1組副隊長の」
白髪に白い睫毛、白い肌。
黒城のシロとの噂も納得の見た目だった。
しかしよりにもよって、生徒会室を大いに占領するうちの1人。
こんなに早くぶつかるなんて、誰か嘘だって言って。
思わず頭を抱えてしまった。
「…なんでこんなんになるまでやっちゃったの」
「…すいません」
唇を噛んで黙りこくってしまったセリを見て大方予想がついてしまった。
「どうせ私の悪口でも言われたんでしょ」
弾かれたように顔を上げるセリ。
どうしてちょっと泣きそうなの、思わず少し笑ってしまう。
「放っときな。私は大丈夫だから」
私が笑っても、セリはまだ腑に落ちないようだった。
「ナズナさんは私たちより大人だし、いろいろ理由があって手を出さないようにしてるのに…」
「女の子たちは分かってくれてるし、セリもよく理解してくれてる。私はそれだけでいいの」
ポンポンとセリの肩を叩く。
頭の中では5回は殺したという大人気ない部分は隠しておくことにした。
「でもありがとう。私のために怒ってくれて」
「…はい」
今度はセリも少しだけ笑った。
残念なことに、こんな状況でそんな穏やかな場面が続くわけがない。
すぐに廊下全体の空気がピリピリしだした。
あれほど五月蝿かった男たちがすっかり静まり返ってしまっている。これまた不愉快。
原因は見なくとも分かった。
「しまった、さっさと逃げればよかった」
向かってくる2人の男を見て思わずぼやくと、ラコがそんなんで済むわけないでしょう、を具現化したような視線を投げかけてきた。
しっかり伸びてしまっている柊を見て、問答無用で1人は殴りかかってこようとして、もう1人がそれを制止した。
赤い坊主頭に耳下からまっすぐ縦に並ぶ英字のタトゥー、金の眉ピアス、くっきりした顔立ち。
センターパートの前髪、長めの襟足、ずば抜けたお洒落金髪、正統派なイケメン。
特徴的に1組隊長の春川 隆司と、副総長の滝 誠で間違いないだろう。
「おい、シロに手出しておいて軽く済むと思うなよ」
「落ち着けハル」
「不意打ちとは流石女は卑怯なもんだ、シロが背向けたところでお前が飛び蹴りして階段から転げ落としたんだってなァ!」
思わず吹き出してしまった。
一気に私に視線が集中し、しまった、と口を押さえる。
「だってそれは流石に酷いなって思って」
「…舐めてんのか?」
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