第7話 新生徒会室

「まぁ、悪くはないね」



 黒城の生徒会室は私たちの校舎と違ってどうやら地下にあり、恐ろしいニンゲンに占領されているらしい。彼らと関わってもいいことなんて一つもない、ここは大人しく譲歩する。


 そういうわけで私たち生徒会は、やっぱり最上階の扉に『生徒会室』のプレートを取り付けていた。


「わぁ!ここは別世界!!」


 生徒会室に入った夏は目を煌めかせてルンルン踊っている。

 新生徒会室は生徒会権力を駆使した結果、元が音楽室とは思えないほどの進化を遂げていた。


 やっとひと段落。

 私はため息をつきながら、生徒会長のソファーに腰を下ろした。



 黒城との合併が未だに少し理解できない。

 我らが理事長はあの封筒をよこして以来音信不通で、理由を尋ねることさえ許されなかった。

 最近黒城の理事長が変わったらしいとの噂は聞いていたが、それと関係があるのだろうか。



 何もどこよりも仲が悪い私たちが合併することないんじゃなかろうか。

 現在、合併からまだ数日しか経っていないというのに、既に数十人が救急車で運ばれるという悲惨な状況に陥っている。


「ナズナさん、また救急車が…」


 ラコの呟きに思わず頭を抱えてしまう。

 地獄があるのならばそれはここだろう。



 ドアが開く音がして、やっとセリが来たかなと目を向けると、ゲラゲラ笑う男が3人も登場した。

 あの神々しいプレートの文字は見えなかったらしい。


「…は?」


 最初の男が、目を丸くする。


「何だよこれ」


 他の男達も同様に驚き、そしてようやく私たちの存在に気がついて、状況を把握したようだった。

 一気に戦闘モードに切り替わって、私のことを睨みつけてくる。


「ここは俺らの溜まり場だ。女が入ってきていい場所じゃねぇんだよ」


 呆れるほどに怖い顔をしてくる彼らに、文字通り呆れ顔をしてみせた。


「嘘でしょ?廃墟だったじゃん」


 私の言葉を聞いて、堰を切ったように男たちがワアワア騒ぐ。



「ふざけたこと言ってんじゃねぇよ」

「そんなに痛い目みたいかよ…!」



 その男達が振り上げた拳が、私に届くことは勿論なかった。


 さも簡単に拳を握った男達は吹っ飛んで行った。

 見なくとも分かる、双子の仕業だ。

 2人は息ぴったりに振り返ってきて、一気に畳みかけてきた。


「ナズナさんこいつら!ナズナさんに手上げようとしたんですよ!」

「そんなの死刑です!」

「ちゃんと妥協するんで!」


「「やってもいいですか!!」」


 思わず苦笑しながら、よいしょ、と椅子から立ち上がる。

 待てされてる双子と、本当に怒っている3人の横をすり抜け、ドアの前で立ち止まる。

 そして対峙している状況を、のんびり振り返った。


「本当はね、私がストッパーしてるのよいっつも。でも私、あんまり男って好きじゃないのよ」


 私は夏と秋にニヤっと笑いかけた。


「好きなだけ相手してやんな」


 2人は信じられない!とでも言うように顔を輝かせた。

 何度だって思うけど、もう少し可愛い理由でその顔してほしいんだけどな。


 私が生徒会室のドアを閉める頃にはもう男の呻き声が聞こえてきていた。

 お構い無しにスタスタと階段を降りていくと、後ろからラコが追いついてきた。


「ラコ、どうしたの」


 足は止めないままに尋ねると、ラコは静かに答えた。


「ナズナさんにもしものことがないように、私はいつも傍にいます」

「心強い、ありがとう」


 ラコは少しだけ微笑み、微かに頷いた。

 生徒会室を出たはいいが、特に行きたい場所もない私はブラブラと廊下を探索する。


 それにしても、汚い校舎だ。

 廊下も階段も、教室も。煙草やペンキ、スプレー、割れたガラスの破片や誰かの血痕で埋まっている。


 我らが赤丸の校舎は、ここまで荒れ狂ってはいなかった。


 私とラコが歩いていても、以前のような静けさはない。

 もっとも女子は男との喧嘩でさえ一時停止して静まり返るわけだが、男の方はそうもいかない。

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