第5話 合併
そして数週間後。
いい天気の日だった。
俺はバイクを飛ばしながら、お気に入りの曲を口ずさんでいた。
誠さーん、という黄色い声に時折手を振って応えておく。
大通りの赤信号に引っかかったとき、前方から尋常じゃない音量の悲鳴が飛んできた。
もしかして、と思って車を抜いて行くと案の定そこには
「イチ、おはよ」
眉間に皺を寄せるイチがいた。
「マコ」
俺に気がつくと、イチは手をひらひら振った。
不機嫌そうな顔でもイチの顔は映えばえしい。
切れ長で涼しげな目元。高い鼻。小さな顔。
彼の容姿は透き通っているような美しさなのだ。
思わず見惚れていると、イチの目が俺を捉えた。
「何」
「いい顔してんなって」
「気色悪」
「ひでぇ」
「誠くんもいる!」
「今私のこと見たーっ!!」
「サカキ様ーー!!」
イチは青信号と共にさっさと飛び出していった。
追いついてイチの隣につけると、なかなか途切れない悲鳴に思わず笑ってしまった。
どうしてこの冷酷男はこんなにも人気があるんだろうか。
「モテる男は辛いな」
俺がからかうように笑うと、イチは「覚えとけよ」とさらにスピードを上げて行ってしまった。
「すーぐ怒るんだから」
全く、あの女嫌いには困ったもんだ。この先どうなることやら。
今からのことを考えると体が震えた。
「お疲れ様です!」
なんとかイチに続いて体育館に足を踏み入れると、周りの連中が声を揃えて、一斉に頭を下げる。
我らが王様の機嫌は残念ながら治らなかった。
周りも雰囲気で悟っているらしい、直角お辞儀から全く顔を上げてこない。
舞台の上には既に校長やら教頭やらが立っていた。
「サカキさ〜ん、誠さ〜ん、遅刻ですよ〜」
舞台のすぐ下で、スズランが体育座りしながらクスクス笑っていた。
その隣ではシロの頭が船を漕いでいるし、ハルは舞台上で頭を下げていた。
どこまでも自由な奴らである。
イチが舞台にもたれかかると、足元のスズランがサッと立ち上がった。
俺はいつも通りイチの右後ろに構える。
「…えー、準備が整ったようですので、」
校長の不安げな声が体育館に響く。
「あー、本日は大変めでたい日でありまして、その、『私立白百合女学院高等学校』との合併という、非常に記念となる日なんですね、はい」
イチがいればこんな校長の声さえ響く場所に早変わりする。
遮るとすれば
「あー、ンでこんなことに…」
と頭を搔くハルくらいだ。
「でもすごい可愛い子多いって有名ですよ、隆司さん。お嬢様ばっかりだって」
「そういう問題じゃねぇんだ馬鹿野郎」
スズランのフォローに、やれやれ、とハルが首を振る。
うちの幹部は女嫌いが多い。女に手を振られて振り返すのは、たぶん俺だけだ。
「…もう来てくださっているとのことで、ですよね、教頭…?はい、では呼びに行ってもらえると…」
イチの目がもはや殺人ビームを放っている。
しかもこいつ、ちゃっかり煙草咥えてやがる。
「サカキさん、法律違反ですよ。堂々としすぎです」
スズランは手を口で押さえながらまた、クスクス笑った。
世間知らずのお嬢様達は、こんなところで過ごせるだろうか。
若干女好きハーフの俺でも、学校というテリトリーに入ってこられるのはあまり好ましくない。
耐えきれなくなって出ていってくれるなら、それはそれで嬉しいが……。
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