第3話 第14代生徒会(2)

 そんなセリの横に立つと、普段なら怒号が飛び交う廊下が水打ったように静まり返る。

 穏やかで平和な廊下を歩き、階段を登る。

 廊下の一番端に見える焦げ茶色の大きな扉。


『生徒会室』


 扉の上にかかる金色のプレートは、いつ見ても綺麗で惚れ惚れする。

 同じ金色のドアノブに手を掛けた。


「「ナズナさんっっ!!」」


 私の姿を見るやいなや、ソファーからぴょんっと飛び降りた2人。

 双子の姉妹、夏と秋だ。


「ナズナさんいっつも早いのに!今日は全然来なくて!」


 と、書記 夏。


「もしかして何かあったのかなとか!焦りました!」


 と、会計 秋。



「「それより!ビッグニュースです!!!」」


 セリが両手で耳を塞いでいる。

 私は2人の元気ハツラツさに呆れながら、会長の席にカバンを下ろした。


「ビッグニュース?」


 どうせまたしょうもないことだろう。

 確か前回のビッグニュースは、食堂の期間限定食が始まっただとかなんだったとか。

 なんて気を抜いていると、ガチャリとまた扉が開き、ラコが中に入ってきた。


「あら、ラコちゃんおはよう」


 私が笑うと、ラコは小声で挨拶しながら、何やら真っ白の封筒を持って私に駆け寄ってきた。

 ラコはこの生徒会唯一の2年生で、私の補佐をしている。


 その封筒を受け取ろうと手を伸ばすと、また生徒会室のドアが開いた。

 今までとは違い、壊れそうなほどの爆音と共に。


 セリは不機嫌そうに目をやり、夏と秋は互いに顔を見合わせてニヤッと笑った。

「1年3組の松咲です。生徒会役職を希望しに来ました」

「同じく1年、赤坂です」


 私を真っ直ぐに見て、しっかり言い放つ2人。

 今年は少ない方だが、生徒会室ではときどきこうやって椅子取りゲームが開催される。


 セリがなんだ1年生かとがっかりしているのが感じ取れた。



「ナズナさんっ、お客さんです!」


 まず夏が甘え声を出しながら私を振り返った。


「前はラコの独壇場だったし、今回は私たちが相手してもいいですか!」


 今度は秋が目を輝かせながら私を振り返ってくる。


 やれやれ困った子たちだ。

 目を輝かせて、甘えて我儘言う場面にこういうところを使わないでほしい。



「わかった、いいよ」


 私がソファーに深く腰を沈めると、2人はパッと前の1年生に向き直った。


 夏と秋の喧嘩は、普段の彼女たちのトークと同じくらいハイペース。やってきた2人はほとんど手も足も出ていなかった。


 先に倒れ込んだのは、秋が相手をしていた方。

 秋は容赦なくその子の腹を蹴り上げた。


 瞳に涙さえ浮かべる彼女の髪の毛を掴んで、無理やり顔を合わせた秋がニコニコ笑う。



「あのさぁ、どうしてこんなんなのに生徒会室のドア開けれるわけ?」


 丁度夏の相手方もがっくり膝をついて、力なく倒れ込んだ。


「ホントホント、生徒会舐めてんの〜?」


 この2人は精神年齢が子供すぎて、限度が理解できない。

 そもそも限度という言葉すら知らない気がする。


 夏が倒れ込んだ女の子にとどめをさそうと手を振り上げる。

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