第2話 第14代生徒会

「…寝過ぎた」



 私は目覚まし時計片手に、布団の上でがっくりと肩を落とした。


 9時過ぎ。

 完全に遅刻だが、私の学校は規律を重んじるタイプの方が少数派。

 今から準備しても最下位グループには含まれないだろう。


 なぜか。

 私が通っている高校は、全国にその名を轟かせているためだ。

 体育系や文化系の部活が全国大会にいくわけでも、名門進学校なわけでもない。


 なぜなのか。


 私の学校は、私立赤丸女子高等学校。

 通称"赤丸"。


 全国屈指の、不良軍団校なのだ。




 支度をすませ、春の匂いが充満する通学路をのんびり歩き始めた。

 まだ寝足りないのか、はたまた日々の退屈からか、止まらない欠伸を手で抑える。


 私は風紀に関してはかなりイイコ。

 深い紺のセーラー服に、赤丸を象徴する赤いリボン。

 髪は染めていないしいじってもいない。


 しかしながら私の高校は不良軍団高。

 派手なクルクルパーマだって、派手なメイクだって山ほど存在する。

 まさに今し方見えてきた校門前にたむろしている連中が良い例。


 彼女たちとの距離が縮まってきたとき、不意に1人と目が合った。

 弾かれたようにその子が立ち上がると、周りが荒々しく視線を上げた。


「馬鹿、ナズナさんだよ!」


 一斉に彼女たち全員と目が合ってしまった。

 次の瞬間既にその姿はなく、あら、と目をやれば、校門の端ギリギリまで飛び退いている。

 その光景が少し可笑しくて、小さく笑いながら横を通り過ぎる。


「おはよ」


 両端の子達の背筋がビシッと伸びて、大きく空気を吸う音が聞こえた。


「「「おはようございますっっ!!」」」


 なんてご丁寧な直角挨拶。

 感心しながら歩き続けていると、後ろから地獄の底から這い出てきたような声が聞こえてきた。


「…邪魔」


 続けて鈍い音と、掠れた呻き声。

 聞き覚えがありすぎる声に思わず振り返ると、


「はっ、ナズナさん」


 突然トーンが2つぐらい上がったセリが、すっかりのびている女の子からパッと手を離した。





「珍しいっすね、ナズナさんがこんな時間に登校なんて」



 何にもしてない女の子に手出さないの、と軽く説教しながら一緒に昇降口を抜け、セリと2人、並んで歩いた。


「寝坊したのよ珍しく」

「昨日の、遅かったですもんね」


 セリは生徒会 副生徒会長。

 土方歳三を倣って「鬼の副会長」と噂されることもしばしば。

 芹沢アカナという自分の名前はお気に入りで、いつも真っ赤な髪をオールバックにしている。


 セリは生徒会外の連中とのコミュニケーションが致命的に下手くそだ。上手く話せないはもちろん、すぐに手を出してしまうから、私はときどきこうやって説教する羽目になる。

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