その女、最強につき

羽澄

第1話 夜桜

 春の夜、チカチカ光る街頭に桜が照らされている。私はただぼんやりそれを見つめていた。舞って落ちた花びらを、くしゃっと踏む足がひとつ。


 せっかく綺麗だったのに。


「ナズナさんの花見邪魔してんじゃねぇよ」


 と一声。足はたちまち飛んで行ってしまった。


 よくあることだ。春だし、総入れ替え後は誰だって気が立つ。力の強さも周りに誇示したくなる。

 男ってそういうもんだ。


「本当、男って馬鹿ですよね、ナズナさん」


 私の思考を読み取ったかのように、セリが嘆く。


「そうねぇ、特に黒城は救いようないよね」


 目の前の光景に目をやりながら呟いた。私の可愛い双子が好き勝手暴れている。



 少し立つと風が止んで、花びらさえ舞わなくなってしまった。

 私は遊具から腰をあげた。


「帰ろっか」


 セリとラコがすぐに返事をする。

 双子は相変わらずだったが、私が歩き始めると慌てて手や足を止めた。


「あ、ナズナさんっ!」

「待ってくださいっ!」


「早く帰ろ」


 振り返りながらそう言うと、絞り出したような声が足元から聞こえてきた。



「クソ、女のくせに」



 足元に目を落とすと、カエルのように地面に這いつくばる男が私を睨んでいた。私はそれをコツンと仰向けにさせて、腹の上に両足で立った。グェ、と本当にカエルのような声を出していて、少し笑ってしまうそうになる。

 踵で丁寧に鳩尾を抉りながら、カエル男に説明しておく。



「桜が可哀想だったから、仕返し」

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