【KAC20227】出会い、別れと、

滝杉こげお

コウキとアカリの思い出



 4月、それは『出会い』の季節。

 僕も今日から高校生。

 気合を入れて登校する、その道中。


「えっ、アカリさん?」


「コウキくん!」


 高校の校門の前で僕はありえない光景を目の当たりにする。

 栗毛の方まで伸びる髪、優し気に垂れた目元。

 彼女は僕の幼馴染、上月アカリだ。


「君は、確か転校したはずじゃ」


「ははは。そんな、驚かないでよ。お父さんの転勤で引っ越す予定だったんだけど、また最近コロナが流行りだしたでしょ? 転勤が中止になったのよ」


 普通に話しているが心臓はバクバクと音を立てて鼓動している。

 引っ越してしまった君の事を僕がどれだけ思っていたか。

 それがまた、君に会えるなんて。


「じゃあ、また学校が終わったらね!」


「う、うん」


 変わらずに笑顔のアカリを見て、僕はある決心をする。


 校舎へと走り去っていくアカリの後ろ姿。

 僕はあの日、後悔したんだ。

 君に伝えられなかった言葉。

 もう一度会ったら、必ず伝えようと。




「君のことがずっと好きだったんだ」


「えっ、コウキくん!?」


 下校時刻。

 僕はアカリを呼び止め、告白する。


「嬉しい。私もコウキくんのこと好きだったんだよ」


「それじゃあ!」


「うん。これからもよろしくね!」


 こうして僕たちは『出会い』、両想いになったんだ。

 桜の木の下で、僕たちは満面の笑みで記念撮影をした。




 3月、それは『別れ』の季節。

 3年間通った校舎を振り返り、僕は涙を堪える。


「ごめんなさい。もうコウキくんとは会えないんだ」


「そんな、どうして」


 聞かなくたって分かっている。

 彼女の父親は商社マンだ。

 転勤が多く僕たちが出会う前にも何回も転勤を繰り返していたという。


「遠くに行っても手紙は書くからね」


「うん。それじゃあ――バイバイ」


 本当は伝えたかった。

 君が好きだ。行かないでくれと。

 でも離れ離れになるのなら。

 それを伝えるのはお互いに辛いだけだろう。


 僕は本当に伝えたかった言葉を胸にしまい込んだ。


 家に帰るまで僕たちは無言だった。

 記念にと写真を取って、何とか笑顔を取り繕った。


 別れ際、彼女の目に涙が浮かんでいた。


 こうして僕らは『別れ』、僕のは幕を閉じた。





「あれ? ここの写真、入れ替わってるね」


 4月、僕らが付き合い始めてからもう七年になる。

 お互いに無事大学を卒業し、今年からは社会人だ。


「あっ! この写真、私たちが付き合い始めの頃の写真だよね」


 アカリは僕の隣に来ると、アルバムから二枚の写真を抜き取るとその位置を入れ替えた。

 『出会い』と『別れ』の写真。

 それを正しく『別れ』と『出会い』の順番に。


 二人で写真を眺めながらあの頃を思い返す。

 離れ離れになるはずだった僕らの間に起きた小さな奇跡。


 僕たちの物語は始まったばかりだ。

 これから分厚くなっていく僕たちの思い出を先に見て、僕たちはアルバムを閉じた。

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【KAC20227】出会い、別れと、 滝杉こげお @takisugikogeo

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