一縷

「お姉ちゃん久しぶり」

僕は姉の墓前に手を合わせ、近況を報告する。

カイリくんという面白くて努力家な大学生に出会えたこと。

妹のあんずとスポッチャ行ったこと。

今のお母さんと上手くやってることなど、僕はとっても上手い笑顔を作って話した。

あれから8時間ほど経ち、お昼になった。今日の夜中にこっそり家を出て、本部に隠れた後、電車で四十分したら区外にある姉の墓地に到着だ。

幸い僕がいつもより大人っぽいメイクと、黒のロングスカートでそれとなく大学生に見えるらしい。おかげで僕は警察に怪しまれずに済んだ。

長らく続いた会話を終えて、姉にお高めのカステラをお供えして帰る。

墓地から出た僕は近くのコンビニに向かうことにした。都会に比べてのどかな街で、僕は過ごしたらしい。

当時の事件の記憶だけしか印象に残ってないから、詳しいことは分からないけど、海野家が事件を起こしたなんて話は今でも信じられないとのこと。

あれほど娘を愛してて、ご近所さんからも親しまれた実母が殺人を犯すなんて考えられなかったとのこと。


ただし事件前のこと、実母の目には隈が目立ち始めたりしたらしい。

そうこう思い出しているうちに、気づけばケースに入ってるサンドイッチをまじまじと見つめていた。

さすがにこれ以上悩むのは、どうかと思うのでツナエッグハムサンドを買った。

「これください」

僕が素っ気ない態度で金髪の二十代くらいの男性店員に渡すと、男性店員は商品を手に取らず、僕のことを見続けた。

「あ、あの?どうかしましたか?」

思わず僕が問いかけると、店員さんがふと「あっ、まさか!?」我に帰ったように驚いた。

「失礼ですけど・・・もしかして芝浦さんの姪さんですか?」

「なぜ・・・それを?」

「いや、うちのコンビニによく来てたんすよ。ここ数ヶ月は全然みなくなったんですけど、それまでほとんど何かを探しているようだったので、気になってきいたっす。そしたら、今は絶縁した姪に一目ひとめ見たくて、このコンビニいらっしゃるとか。もうお昼から夕方びっしりいましたよー」

店員は嬉しそうにペラペラとよく喋る。まるで感動したドラマを語るように、喋る彼に僕に黒い感情が芽生えていったが、わざと驚いた表情で誤魔化す。

「ちょっと待ってください!じ、じゃあおじさんは・・・」

「もちろん、あなたに会いたい一心だったと思いますよ。ほんとに姪っ子さん愛されてますねっ」

何気なく早口に話す金髪店員に、僕は心の奥底で腹が立ってしまった。

何が分かるっていうんだ。

「その人は僕のこと心配してないよ」

「へっ!?な、何言ってるんすか?そんな訳ないはず」

「一目みたいって、人目見れば十分ってことよ。その後、どうせ

「っ!?そんなわけないっす。だって・・・あの人はいつもずっとあなたのこと」

「普通の中学生だったら僕は夕方や土日に来ると思ったのよ、あいにく僕が姉のとこに行くのは学校ある朝の日だから、思わなかったに決まってる!」

店員は真実を知り、言葉が出なかった。ただ僕に会計を済ませた後、袋と商品を手渡した。

「す、すみませんでした!」

店員が僕が出口から去ろうとした瞬間に、頭を下げ狭い店内に響き渡る声で謝罪する。このまま何も言わずに去るのは罪悪感が残る。

僕のことを少しでも心配した彼に酷いことを言ってしまった。

「気にしなくていいよ、人の気持ちを察することなんて難しいからね。君は善意で動いただけみたいだし」

そういって僕はコンビニから去った。

「あっ、ラムちゃん」

「うげっ、川上さん。どうしてここに!?」

ふとコンビニ近くのベンチに現れたのは、三つ編みのおさげと丸メガネの親友だった。いくら同じ東京だからって、平日に現れることはないと思っていた。

「ラムちゃん・・・私心配だったんですよ?急に昨日から連絡つかないし、思わずラムちゃんの家に行っちゃったじゃない」

「ハハハ、ごめんごめんって。返信してないくて悪かったから、だから胸ぐら掴まないでよ!」

「ちゃんと連絡してよねっ!全くもう・・・おばさん迎えに来てるから行くよ」

「え!?お母さん来てんの・・・どうしてよ」

本当に珍しい。今まで、僕の母は血も繋がらないこともあってか、僕は母に気を遣っていた。特に杏との時間を大切にしてほしくて、養女の僕は両親との距離間が年々離れてしまった。

川上さんがぐいぐいと車に引っ張っていくと、目の前に若くて美しさが際立つ母が運転席で手をふってきた。

僕はいつものことだけど、連絡もせず姉の墓に行ったことに対して軽く頭を下げた。

「お帰りなさいラム」

「ただいまお母さん、いやいやどうしてここにいるの〜!?」

「だって〜?本当は川上さんに任せるつもりだったけど、やっぱりどうしてもね。それともラムは私のことをお母さんとは思ってないの?」

、僕にとってお母さんはお母さんよ」

「ふふっ、そういってくれて嬉しいわ」

母さんの笑顔久々に見たなあ。

僕と川上さんが後ろの席に座って、母さんは前の席だ。

お互いの顔をミラー越しで確認し、学校のこととか色々話しながら僕たちは家に戻ることにした。

「あっ、そういえばカイリくんって物凄い面白い子よね」

「お母さん、カイリくんに会ったの!?」

「あんなに?しかも私のこと、ラムのお姉さんとか思ってたみたいだし」

「え〜、もう何言ってんのカイリくんたらっ!」

「ラムちゃんとおばさんが、こんな笑顔で会話するとこ初めて見たかも」

お母さんがカイリくんと会っていたのは驚きだった。どうやら僕が失踪したと思った早とちりでこんなことになったらしい。

カイリくんにも迷惑かけたかな・・・まあ謝らないけど。

だってその方が反応面白そうだし、またからかえるの楽しみだな〜。

そうこう色々、話しているうちに家まであと十分ほどまでの距離になった。

「そうだったわラム、せっかくだしカイリくんを驚かしてきなよ!きっと心配してそうだし、お母さんが許可するわ」

「えっ!ほんとにいいの?」

「もちろんよ、カイリくんに実は GPSつけちゃったのよね」

「いやいや何言ってんですか!?それ犯罪ですよ」

「川上さん、大丈夫!カイリくんはGPSつけても怒らなそうだし・・・」

「お二人ともそんなドヤ顔で言わないでください!ほんとそういうとこは似てたんですね」

僕がお母さんから黒の薄い小型端末を受け取った。そこにはカイリくんにつけた位置情報が表示されている。そこに映った位置情報に思わずぞっとしてしまった。

「ね、ねぇお母さん、これって本当にカイリくん位置情報だよね?ここにいるんだよね?」

「そうだけど・・・もしかしてカイリくんヤバイ店にいたりとか?」

「きゃっ!?何言ってるんですかおばさん」

僕の予想が当たっていれば、間違いなくカイリくんは連れ去られた。しかも僕の叔父によってだろう。

「お母さん、ごめんなさい。ここで降りるね」

「ちょっ!ラム待ちなさい」

お母さんの静止を振り切って、赤信号で車が止まった瞬間にシートベルトを外してある場所に向かった。川上さんは僕の行動に口をあんぐり開けたままだった。

「今四時半だから、もうおそらくカイリくんは、誘拐されてかなり時間が経ってるはず。それにこの場所は・・・



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