拉致
俺と川上さんはラム母に見送られ、頭を下げられる。
ただ川上さんは学校を休んでまで、来てしまったことに対して不満げのようだった。相当、ラムさんのこと心配した反動だろうか。
「とりあえず娘のこと、心配してくださりありがとうございました」
「ラムちゃんもラムちゃんよね。そんなことなら、早く連絡してよ!」
「時々、あるんですよね。娘がお姉さんの墓参りに行く時はいつもそう。まるで二人だけの時間が欲しいみたいに、スマホとか一切電源切って向かうんですよ・・・」
(それでめちゃくちゃ心配したんだが!?)
そう俺は内心思いつつも、ラムさんの過去を聞いた時、ある違和感があった。
「いくら墓参りに行くからって、なんでスマホの電源切るんだろ・・・」
「カイリさん?」
ふと何気なく呟いた言葉に、川上さんは眼鏡越しで目をパチパチとしている。何かおかしいだろうか?
「ううん、とりあえずラムさんが無事ならよかったよ。それで川上さんは学校いいの?」
「いい訳ないでしょ!?もう〜おばさんもちゃんと事情を教えてくださいよ!」
「え?ちゃんと伝えましたわよ」
「その事情ですよ!お姉ちゃんの墓参りに行ったとか、教えてくれれば学校休まなくて済んだのに・・・」
川上さんがムキッと猿のようにジタバタと怒った。ラム母は終始、川上さんに呆れた目をしていたが、なぜか俺に対する目は違っていた。
すると、ラム母の手からあるものをギュッと握りしめられ渡された。
「じゃあ、娘のことお願いね?」
「これはなんですか?」
「ふふっ、もちろん秘密よ」
渡されたのは可愛らしい黄色の小包に、青い生物の
「え〜と、ウミウシ?」
「そうウミウシよ。あの子が大嫌いな生き物ね」
「は?そんなものなんで俺に渡すんですか!?」
「あら、母親の勘ってやつよ。それともいやだった?」
「いや、別にそういう訳じゃ・・・」
「それともやっぱりロリコ・・・」
「それは絶対ないわ」
ラム母の追求には困ったものだ。結局のところ、俺と川上さんも心配して損したわ。特に川上さんは学校休んでまで、ここにきちゃった訳だし。
「むぅ〜、なんかムカついてきました!カイリさん、私ムカついたので、ラムちゃんのとこ向かいますね!おばさん、ラムちゃんのお姉さんのお墓教えてください!」
「はいはい、じゃあマップで送っとくわよ。娘が迷惑かけた訳だし、思いっきりやり返して頂戴ね」
「ありがとうございますっ!カイリさんもラムちゃんのとこ行きま・・・」
「俺、普通に大学あるんだけど・・・なんだったらお昼前に席取らなきゃいけないし」
「あら?カイリさんってぼっちなんじゃ?」
「は!?誰が言ったんだよ!」
誰がぼっちだよ!ふざけんじゃねーし。まあ大学には友達一人しかいないし、なんだったら教授たちを敵に回してるから、マイナスの方が大きい気がするけど。
決してぼっちではない。
ラム母がふふっと美人の頬が緩まり、美しい笑顔を見せる。一方の川上さんも同じく、上品に両手を口元に当てて軽く笑った後。
「ふふふっ、もちろんラムちゃんに決まってるでしょ」
「娘は一度気に入ったら、絶対に離さない性格なんですからね。もちろん私もですけど?」
「そ、それってどういう意味ですか?」
「「さあ?」」
以前、川上さんにも同様のこと言われたな。一度気に入ったら離さない性格だって、めちゃくちゃ怖いな。
二人が小首を傾げてとぼけた。結局、俺は川上さんと一緒にラムさんとは会わず、大学へ向かうことにした。
「今日は確か、黒川の後輩の教授かよ・・・」
前回、黒川准教授の授業を妨害したと学年中で評判になってしまった俺は、あれ以来、学生課にも要注意生徒として登録されたらしい。親友曰く、これ以上教授たちを怒らせれば、単位取り消しもありえるらしい。
(さすがに単位取消は嫌だな・・・)
ここまでの話を聞いた時点で、俺がなんで無駄な大学に通っているか?とか思う奴も多々いると思う。
確かにサボることも出来るけど、無駄だと思っていてもやっぱり青春は過ごしたい。
(なんか、ヤバそうな奴いるんだけど》
ふと目の前に黒いグラサンに、高級そうな黒スーツを着た中年男性が見えた。
高級住宅街の電柱に隠れて、誰かとスマホで連絡を取っている。
とりあえず、関わったらやばいと思い、俺は何事もない態度で平然と素通りしようした。だが、俺の姿を男が捉えた瞬間だった。
「こんにちは、失礼ですが
「うわっ、な、なんだよ」
いかにも治安が良さそうな住宅街でも、怪しい黒服の男に声をかけられるのはビビる。かといってもまだヤバいと決めつけるのは、失礼だろうか。
黒服の男は無言のまま表情を変えず近づく。以前、黒川に見せた圧力をかける技だ。怒りを見せるより、無言で表情を変えない方が人は怖くなる。
「いや
「見つけた。海野ラムの男」
「へ?何を・・・うぼっ」
鳩尾に衝撃が走った。
黒服の男から強烈なアッパーを喰らった俺は、コンクリートの地面に身体をつける。
「なんなんだよ、てめぇーら」
「連れて行け」
複数の足音がこちらに向かって行き、手にロープを縛られる感触があった。
男はその場からゆっくりと立ち去っていく中、俺の意識は途絶えた。
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