第59話 決戦!


<エステル視点>


「大丈夫か?」


エド様が声を掛けると二人は嬉しそうに顔をほころばせた。


「エド様!」


「ご無事でしたか!」


ダン様は何時も通りだけど、サム様はなんか酷いことになっている。血だらけの泥だらけだ。


「エステルさんに助けてもらったよ。互いの無事を喜ぶ前に、まずは周りの敵を何とかしないとね。」


私の魔法で少しは倒せたけど、次から次へと押し寄せてくる。

どうしたのものかと考えているとシロが勢いよく駆け出し、敵の密集しているところへ突っ込んでいく。


「え? シロ?」」


ワォォーーーン!


シロが強く吠えるとシロを中心に光の波が放射状に広がっていく。

その光に触れた魔物は塵となって消えていく!


「な!! これは聖獣様が使ったと言われている”聖なる咆哮”!? ではシロは聖獣! その契約者のエステル嬢は……。」


ダン様はとても驚いている。やっぱりシロは聖獣なのだろうか?


シロってこんなことも出来たのね! 始めてみた。

テッテッテッテと戻ってきたシロはちょっと悲しそうだ。

あ、そっか。塵になっちゃったものね。食べられないね。


「エステル嬢、あなたはどの程度神聖属性の魔法を? 回復魔法は使えますか?」


ダン様が聞いてくる。


「私が知っているのは学園の教本に載っていた中級魔法までです。」


「なるほど。私が詠唱を教えますので回復魔法を試してもらえないでしょうか?」


「出来るかどうかわかりませんがそれで良ければ……。」


ダン様は懐から紙とペンを取り出すとサラサラと書き込み、渡してきた。

書かれた詠唱を読み上げる。



 雨よ雨よ 降り注げ、音もなく

 雨よ雨よ 傷ついたこの地を潤す

 命は台地を駆け巡り

 実りを持って渇きを癒す



最後のキーワードを唱える。

出来るかどうかわからなかったので思いっきり魔力を込めた。


「”豊穣の雨”」


宵闇の空は光の雲に包まれる。

そしてそこから優しく輝く雨粒が戦場に降り注ぐ。


「なんだ? 力が漲る!」

「傷がどんどん癒えていくぞ!」

「なんと……MPも回復していく!?」


倒れていた人が次々と起き上がる。

逆に魔物側には甚大な被害が出ているようだ。

雨粒が魔物に当たるとまるで熱湯を掛けられたように焼けただれていく。

巨人もこれにはたまらないようで両手で雨粒を防ぐようにし、身を縮こませている。


「やはりエステル嬢は……。これが初代様が使われたという聖人の力か……。」


ダン様はしみじみと光景を見つめている。


「おっぱいちゃんは聖女だったのか……。凄い、凄いなぁ。ははは。俺は本当に凡人だ。」


サム様はどこか吹っ切れたような表情をし、両手を広げ、全身で雨を浴びている。

……サム様、凡人は騎士になれませんよ?


「今のうちに前線を立て直す。」


エド様がよく通る声で宣言する。


「エド様だ!」「ご無事だった!」


エド様の姿を見つけあちらこちらで歓声があがる。

凄い人気だ。……ひょっとしてエド様はただの騎士様じゃないのだろうか?

かなり偉い人なのかもしれない……。


「――そうはさせん。」


いつの間にか私たちの近くに魔族の男が立っていた。

若い男だ。立派な服装で腰に剣をさしている。


「聖獣に聖女、そして宝剣……。よくもまぁこれだけ揃ったものだ。」


シロ、私、そしてエド様の持つ剣を見て忌々しそうにつぶやく。


「だが、ここですべて滅ぼしてしまえば良いだけのこと。地獄の巨人よ! 覚醒せよ!」


男が腰の剣を抜き放ち天に掲げた。

剣から黒い炎のようなものが立ち上る。

するとどうだ! 巨人も同じように黒い炎に包まれた。


グォォォォン!


大地を揺るがすほどの咆哮あげ、立ち上がった。!

今も降り続けている豊穣の雨をものともしない。


「我が直々に相手してやるとしよう。この暗黒剣デモンブラッドの露となるがいい!!」


「させるか!」


サム様が魔族の人に切りかかる。

魔族の人はその剣を軽々と受けとめた。


「ふん、少しはやるようだがこの暗黒剣の前では無意味!」


暗黒剣にまとわりつく黒い炎が剣を伝い、サム様に迫る。


「くっ!」


慌てて飛び退るが、黒い炎はしつこく追いすがり、サム様の腕を焼く。


「ぐわ!」


「サム! これは呪いか? エステル譲! ”浄化”は使えますか?」


「初級の”浄化”などで――」


「”浄化”」


魔族の人が何か言っているけど無視してサム様に浄化を使う。

すると黒い炎は消え去った。


「馬鹿な!? く、聖女め……。なんと厄介な……、ならば貴様から!」


「そうはさせないよ!」


エド様は手に持った宝剣を抜き、魔族の人に切りかかる。


「貴様も暗黒剣の餌食となるがいい!」


暗黒剣の黒い炎が燃え上がる。しかし、先ほどのサム様の時とは違い剣を伝うことはない。


「宝剣よ! 僕に力を貸してくれ!」


エド様の呼びかけに応えるようにエド様の剣が光輝く!

すると燃え上がっていた炎の勢いが見る見ると弱くなった。


「こんなに宝剣の力を引き出せたのは初めてだ……。これなら!」


「くそ! ならば純粋な剣技で切り伏せてくれる!」


エド様と魔族の人は激し切り結ぶ!

なんとか目で追えるけど、横から魔法での援護は出来そうもない。


「さすが宝剣……。エステル譲、殿下とともにここをお願いできますか? 私は巨人の討伐へ向かいます。あと、時折先ほどの回復魔法を使ってもらえると助かります。」


「はい。シロ、巨人の方お願いできる?」


ワン!


シロは元気に返事をして巨人へ向かっていく。


「サムはエステル譲の護衛を頼む。」


「わかった。この身に変えても守って見せるさ。」


サム様が私の横に立ち、いつでも動けるようにと身構える。

私は他にできることも無いので先ほどの回復魔法をもう一度唱える。


「”豊穣の雨”」


先ほどと同じように光り輝く雨粒が辺り一面に降り注ぐ。

そんな間にもエド様達の戦いは続いている。

魔族の人の剣がエド様を掠める。

しかし、豊穣の雨の効果ですぐにその傷は癒えていく。

逆にエド様の攻撃がかすっても魔族の人は癒えることはない。

徐々に差がついていく。

魔族の人が大きく距離を取った


「忌々しい雨だ。剣技は互角か……。血が薄くなろうとも聖人の子孫なだけはある。だがこれはどうかな? はぁぁぁ!!」


暗黒剣に纏う炎が声に応じるように立ち上る。


「喰らえ!! 暗黒滅墜撃!!!」


魔族の人は飛び上がり、大上段から叩きつけるようにエド様へ向け振り下ろす!


「”聖壁”!」


私はとっさに防御魔法を使い、エド様への攻撃を防いだ。


ドガァァァァァァァァン!!


「な、何!! この必殺の一撃を中級魔術で防ぐだと!?」


「――隙だらけだよ!」


エド様は渾身の一撃を防がれ、驚愕していた魔族の人を切り付けた。


「ぐぬぬぬ! 聖女め! …… ならば!」


突然、魔族の人の姿がかき消えた。


「死ね!!」


背後からいきなり声が聞こえ振り向くと魔族の人が私に向け剣を振るっている。


「転移魔法!?」


エド様から驚きの声が聞こえる。


「させるか!」


サム様が自らを盾にし、私を抱きながら飛びのいた。


「うっ!!」


サム様は肩を深く切り付けられる。

そして暗黒剣の炎が傷口を焼いていた。


「だ、大丈夫ですか? ”浄化”!」


私はサム様が身を挺してくれたおかげで無傷だ。慌てて魔法で呪いを解除する。


「あはは。これで少しはカッコがついたかな? エド様!」


「サム、ありがとう、君は何時もカッコいいよ! 魔族よ! 今度はこちらの番だ!!」


エド様は剣を両手で持ち正眼に構える。


「はぁぁぁぁ!!」


エド様の声に呼応して宝剣が光り輝く。その光が収束していき剣の形を象る。宝剣本来の何倍もの長さの光る剣が現れた。


「そのような攻撃は喰らうか!!」


「逃がすか! ”雷矢”!」


サム様が転移魔法で逃げようとする魔族の人に向かい、剣を投げ、さらに魔法を放ち牽制する。


「くそ!」


魔族の人がそれの対応している隙にエド様が剣を振り下す。


「聖光滅魔斬!!」


剣から眩い光の波が発せられ魔族の人を飲み込んだ。


「こ、こんなところで!!!」


その光が消えたとき、魔族の人は跡形もなく消え失せていた。



<あとがき>


次回で完結です。

できれば本日中に上げます。12時ごろ目標。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る