第57話 まさかのライバル!

「あのすいません! どなたかエド様がどこにいるか知りませんか?」


「エド様のお姿は見かけていない。」

「そうだ! エド様は最初に攻撃された指令所の天幕にいたはず……。」

「まさか……攻撃に巻き込まれて? すぐにお救いせねば!」


指令所の天幕があった場所を聞き出し、”生命探知”で探る。

すると瓦礫の下からずいぶんと弱々しい反応を感じた。


「この下に誰かいます!」


騎士様たちに手伝ってもらって瓦礫をどかすと倒れ伏したエド様がいた。


「誰かポーションを!」

「保管場所も吹き飛んでいる! 掘り出すぞ!」


周囲の喧騒を無視し、私は腰に下げていた母乳を取り出す。

そっとエド様の口に注ぐ。

しかし、口からすぐに漏れ出てしまった。

いつぞやの重症の患者さん。あの時と一緒だ。目立った外傷は無さそうだ。すると内臓をやられているのかもしれない。


(あの時……ハンネさんは……)


口移しでポーションを飲ませていた。

飲み込んでくれさえすればこの母乳なら内側から回復してくれるはず。


(恥ずかしい……けど!)


ハンネさんは一切の躊躇なく、治療行為としてやってのけた。

変に恥ずかしがってエド様を死なせるわけにはいかない!!

私は急いで口に含み、自分の口をエド様の口に押し当てた。


(漏れ出ないように……、確かハンネさんは喉の動きを見ていた。)


母乳をエド様の口に送りながら、喉の動きを観察する。


(お願い……飲んでください!)


しばらくそうしているとごくりっと飲み込んでくれた。


(やった!! ……えっと確かハンネさんは何度か繰り返すことで重症の患者さんは持ち直していた。)


エド様も一度では完治しないだろう。

私はまた一口、口に含みエド様と唇を重ねる。

その時、不意にエド様の目が開いた。


(え? あれ? もう何度か繰り返す必要があるはずでは?)


エド様とばっちり目が合ってしまった。

頭が真っ白になる。だけど行為は途中で止まらない。

口の中にあった母乳をエド様の口の中へ送り出してしまった。

エド様も驚いた表情でそれを受け入れてごくりと飲み込んだ。


「ポーションを見つけて来た……ぞ?」


騎士様たちが戻ってきてしまった。

唇を併せている私たちを見てぎょっとしているに違いない。

と、とにかく離れないと! 思うように体が動かない。

あぅ、何故かエド様と目を離せない!


(離れる! 離れないと!)


意識を総動員して離れようとする。


(理性的にすっと! ハンネさんがやってたみたいに! ぐぬぬぬ! 動けぇ!)


なんとかちょっとづつ動かせた。でも目を離すことは何故かできない。

結果として見つめ合ったままゆっくりと離れてしまった。


ドクンドクンドクン!!


心臓がまるで飛び跳ねているようだ。口から出てきそうな勢いだ。

心臓の音を意識しだしたらどうしようも無いくらいに恥ずかしくなってきた。

一気に顔が火照っていくのが分かる。

周囲を見渡すと騎士様たちも私を見ている。

せ、説明しないと!!


「あ、あのこれは! これが回復……、そう! 凄く強い回復の効果があってですね。意識が、飲ませようとしたらこぼれたので、えっとその……。」


私の慌てようをぼーっと見ていたエド様がはっとして言った。


「あ!……あぁ、そういうことか。僕は意識を失っていたんだね。それで口移ししてくれたのか。ありがとう、エクセルさん。」


「いえ、その! こちらこそありがとうございました!」


何故かお礼を言ってしまった。


(何でお礼!? 恥ずかしい!! もうどうしたらいいの!?)


あまりの恥ずかしさで顔を覆ってその場にうずくまった。


……

…………

………………


「エステルさん、エステルさん!」


しばらくうずくまっているとエド様に名前を呼ばれた。


「は、はい!」


「皆に聞きました。魔族の討伐を始め、大変助けていただいたようで、ありがとうございます。」


「いえいえ!」


「これからのことなのですが、僕はこれから前線へ向かいます。」


(連れて行ってはくれないだろうなぁ)


当たり前だ。足手まといを連れて戦場なんて行けないよね。

エド様を治療することが出来た。

戻ってきた意味は十分にあったと思う。ここが引き時かな?


「指令所からの指示も途絶え、前線はきっと混乱していることでしょう。僕が先陣に立ち、無事を知らせることでそれを最小限にできるはずです。」


……そういうものなのかな? よくわからないけど。


「そこでお願いがあるのですが……一緒に戦ってくれませんか?」


「え?」


そう言われるとは思ってなかったので驚きの声が出てしまった。

一緒に行っていいのかな? 私……邪魔にならないかしら?


「驚かれるのも無理がありません。兵士でもないエステルさんに戦ってくれなどと、本来は恥ずべき行為なのも承知の上です。しかし、この戦いにはどうしてもエステルさんとシロ様の力が必要です。」


(うん? シロ様?)


「聞けばエステルさんは神聖属性の魔法がかなり得意のご様子。魔族が放った渾身の一撃を難無く防いで見せたとか。……そしてシロ様、そのふわふわの毛並み、高貴な立ち姿素晴らしいです。」


シロは戦闘力を褒めるんじゃないんだ。すごーく負けた気がする……。


「エステルさんのことはこの身を盾にしてでも守って見せます。どうか御助力くださいませんか? シロ様……」


あれ? 私に話していたんじゃないの?

エド様の目はしっかりとシロを捕らえている。

そこには憧憬の念が読み取れた。




<あとがき>

エドワード王子は子供のころから初代の活躍を聞かされつづけずっと憧れを持っていました。

もしかしたら…と思っていたシロが本当に聖獣のようだと部下から聞いてテンションがちょっとおかしくなっています。

これは結婚したあとずっと言われるやつです。

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