第56話 戦闘!

<ハンネ視点>


「あの……、行かせてよかったのですか?」


錬金班の皆は心配そうな顔をしている。


「あぁ、あの子とシロなら何も問題はない。エステルは一人でキングボアを倒せるほどの強者だよ。」


「え!? 一人でキングボアを!!」


そうなんだ。あの子は正面から戦えば魔物にやられるなんてことは無いだろう。

キングボアの突進を魔法で簡単に防げる。そんな者は魔法兵の中にも数えるほどしかいない。

それにあの子の得意属性は神聖属性。魔族が相手ならばそれこそ敵はいないだろう。

経験不足は否めないがシロがついている以上、窮地に陥ることもない。

ただ、戦争は何が起こるかわからない。そこだけ一抹の不安は覚える。


「その割にはえらく心配されておりましたが?」


年嵩の男性の言葉が胸に刺さる。


「心配……というより恐れですね。あの子の実力が分かってしまえば私の手元に置いておくことはできないでしょう。」


シロはきっと聖獣で間違いない。そしてエステルも特別な存在だろう。

それを思わせるだけの予兆は十分にあった。

僅かな期間で魔法が上達したこと、シロを手名付けられたこと、そしてあの加護。


ギリギリまで私の覚悟が出来なかったのだ。

あの子を手放すという覚悟が。

本当ならもっと早くに王太子殿下に全てをあかし、庇護を求めることも出来ただろう。


(あの明るい笑顔に影が落ちるのは見たくない。)


今は私の出来ることをするとしよう。


「さぁ、我々は無事にデリグラッセに帰らないとな。すいませんがどなたか先導を頼みます。私が殿しんがりをつとめましょう。」


「わしも多少は魔法が使えます。道もわかりますのでわしが先導しましょう。」


「僕も戦えますよ。単発の魔物ならなんとかなると思います。」


「ではお二人に頼みます。」


エステル……どうか無事で。

最後に一度陣地を振り返り、私たちは先を急いだ。


<エステル視点>


私とシロはあっと言う間に陣地まで戻ってきた。

もの凄い脚の速さだ。相変わらずレベルアップの恩恵がすさまじい。

戦う準備として杖を構える。”生命探知”を使い、周囲の状況を広く確認する。

近くに私に敵意を持つ反応はない。だけど陣地の中央に禍々しい反応があった。


「こんなの初めて……。この反応はなんだろう?」


敵意ではない。だけど周囲に悪意をバラまいている。

何かとんでもないやつがいそう……。


「もしあそこにエド様が居たら……! はやく行かないと!」


ワンワン!


シロも異論は無いようみたい。むしろ行きたくて仕方がないっと言った様子。


ガルルルル


悪意のある方向を向いてうなり声を上げている。

なんかやる気まんまんだ! これは心強い。


”生命探知”で敵意がこちらに向いてないかだけ確認しながら先を急ぐ。

段々と喧騒が近づいてくる。


(これは戦いの音?)


金属がぶつかり合うような音や爆発音が聞こえてくる。

慎重に近づくと陣地の中央ではまさに戦闘が行われていた。


「こいつらどこから沸いて出てきやがった!」


「気を付けろ! 上位魔族もいるぞ!」


騎士様達が沢山の魔物、そして一人の男がいた。。

男は魔法で空に浮きながら悠然と構えている。

身なりがよく、年齢は40代くらいだろうか?

騎士様たちをゴミを見るような目で見ておりとても冷たい印象を受ける。


(これが魔族? 周囲に悪意をばらまいているのはこの人だ。)


「どこから……ですか? 何、案内してもらったんですよ。あなた達人間の方にね。どこが守りが薄いのか、どこから入れば気づかれにくいのか。えぇ、いろいろと教えてくれました。」


魔族の言葉に衝撃が走る。


「くそ! 裏切り者が出たか!」


「さて、私にはやることがあります。さっさと死になさい。魔物たちよ、ここにいる人間を皆殺しにしなさい!」


その魔族の指示に一斉に魔物が騎士様達へ襲いかかる!

――危ない!


「”聖光”!!」


私はとっさに攻撃魔法を放った。

光が次々と魔物を突き刺していく。

騎士様達そして魔族の人が一斉にこちらを見た。


「これは?」

「あなたは……確か錬金班の?」


凄い注目を浴びてしまった。だけどそんなことに構っている暇はない。


「か、加勢します!」


おっかなびっくり騎士様に合流する。


「……ずいぶん強力な神聖属性の魔法ですね。もしやあなたは王族ですか?」


「お、王族? いえ、農村出の小娘ですけど……」


「ふむ、まぁいいです。どの道、放ってはおけません。」


魔族は手を掲げるとそこに禍々しい魔力が集まっているのが見えた。


「これはこの戦場で散っていった者たちの無念、恐怖、後悔……それらの負の感情を集めた物、ただの人に防ぐ術はありません。死になさい!」


魔族はその集まった魔力を私に向けて振り下ろす


「”聖壁”!」


私は騎士様たちを守るように防御魔法を展開する。

魔力の塊が光の壁とぶつかる。


バリバリバリバリ!!


魔力の塊は私の防御魔法を打ち破らんと激しい音を立てる。


「ほう? なかなか頑張りますね。何時まで持ちますかな?」


(えっと何時までも大丈夫そうな気がするんですけど……。)


確かに多少手ごたえというか抵抗みたいな物は感じる。だけどその程度だ。このままでも1時間は余裕だと思う。

騎士様たちが不安そうにこちらを見る。

大丈夫という意味を込めてにっこりと微笑んでみる。

皆一様にさっと目を反らした。


(何故に……。)


そんな反応されると凄く不安になる。私は何かやってしまったのだろうか?

不安になったので私は杖に思いっきり魔力を送り、防御魔法を強化した。


バーーーン!


光の壁はさらに強い光を放ち、魔力の塊を消し飛ばした。


「バカな! これが防がれる……いや! 消し飛ばしたのか!?」


ワン!!


驚愕し、こちらを凝視している魔族にシロは横から飛び掛かった!

シロの爪が魔族を深く切りつける。


「く、クソ! 白い……フェンリル? まさかあの変異種の子供か!? バカな崖から落ちたはず!」


シロは再度飛び掛かり、魔族の首筋に噛みついた。


「せ、聖獣……、まさか……お前は聖女なのか? グハッ!」


シロはそのまま勢いで魔族の首を噛みちぎる。

首を失った魔族は黒い靄となり、風に飛ばされ消えていった。


(シロがフェンリル? 私が聖女? あ! そんなことよりエド様だ!)


自分が陣地まで戻ってきた理由を思い出し、私は周囲の騎士様たちにエド様の情報を聞くのであった。

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