第53話 威力偵察
「あのポーションはエステルの加護を参考に作ったんだ」
ハンネさんは帰る道すがら教えてくれた。
「凄い! 作れるようになったんですね!」
ハンネさんは街にいる間ずっと実験していた。
その実験が実ったということだろうか。
「いや、ちょっとだけ近づけただけだ。MPの回復効果もないし、何より回復量も及ばない。」
「そうかもしれないですけど、それでも上級ポーション以上って凄いです!」
「進むべき方向性がはっきり分かったからな。参考になるアイテムが有るからあれぐらいできる。」
そういうものなのかな?
ハンネさんの顔を伺うと何か考えているようだ。
「エステル、万が一加護ばバレたとしても『私が作った試作のポーション』ということにするように。」
「えっと、でもそうなるとハンネさんにいろいろ追及とか行ってしまうのではないですか?」
「まぁそうなるだろう。何、『机ひっくり返していろんな薬品が混ざったらたまたま出来た』とか言っておくさ。それなら再現出来なくても早々お咎めは無いだろう。加護がバレて飼い殺しになるよりは全然マシだ。」
心配そうな顔をしていたのだろう。
ハンネさんは慰めるように私の頭を優しくなでてくれた。
「だが、バレないのが一番だ。先ほどのように乗り切っていこう。」
「……はい」
今回は知らない人の生き死にでもあれだけ母乳を使うか使わないか躊躇してしまった。
これが知っている人だったら……。
ハンネさんや錬金班のみんな、そして――エド様だったらどうしていただろうか?
きっと加護の力を使ってしまうことだろう。
そのあと、ハンネさんにすべて押し付けるなんて出来るわけがない。
(なんとかバレずに無事、戦争が終わりますように。)
そう強く願わずにはいられなかった。
<ロブ視点>
「いいか? お前ら犯罪者にチャンスをやる」
偉そうに俺たちの前で話をしているのはサムとか名乗った騎士だ。
英雄になる俺様の前で偉そうに、だ!
俺が犯罪者だと? ふざけやがって! 襲った? エステルは俺の物だ! どうしようが俺の自由のはずだ!
「お前らにはこれから敵軍深くに潜り込み敵地の情報を集めてきてもらう。敵の戦力、陣地、食料などの備蓄……情報を集めた分だけ減刑される。虚偽の情報を持ち込んだ場合、刑の増加に留まらず死罪になることを頭に叩き込んでおけ。」
減刑? 俺様はエステルを襲ったとか訳のわからん理由で逮捕された。さらにあのひょろひょろが王子だった。そのせいで俺は王族に剣を向けたとかふざけた罪もあって二つ合わせて死刑だと言われている。
「お前らの首には魔道具がはめられている。所定の時間までにここへ戻ってこなければ徐々に締まり、お前らを殺すことになるだろう。逃亡は死につながると思え。」
敵地に潜って敵の情報だと?
そんなことをすれば死ぬに決まっている。それに何を持ち帰ったところでどうせ殺すつもりだろう?
サムとか言う騎士の目がそれを物語っている。
ゴミを見るような目。
こいつは俺やほかの犯罪者が情報収集を出来るなんて思っていない。
「王太子殿下が挽回の機会を与えよと仰せだ。その期待に答えて見せろ。」
上の指示かよ……。だと思ったぜ。
こいつらの指示に従うのは業腹だが、今は他に道がない。
魔族側の陣地に向かい森を進む。
俺様の加護【忍び寄る足】を使えば間抜けな魔物どもに見つからずに先へ進むことが出来る。
「ぎゃー!!」
時折、悲鳴が聞こえてくる。
おそらく他の犯罪者が魔物にやられたのだろう。
(間抜けめ。)
ずんずんと奥へ進む。ほかの犯罪者はすべてやれただろう。
(情報を持ち帰るだと? ほかのやつらとは違う。俺様は出来る。やはり俺様は優れている。英雄になるのは俺様だ!)
きっとあのひょろひょろの王子やサムとか言う騎士も俺様の才能に嫉妬しているのだろう。
だから罪を捏造してでも俺様を殺そうとしている。そうに違いない。
(覚えていろ? 必ず生き残って復讐してやる!!)
しばらく進むと森の切れ目に出た。そこは丘のようになっていて、魔族どもが敷いた陣を一望できた。
魔族どもは陣の一部の地面を深く削り、くぼ地を作っていた。
その窪地の中には禍々しい巨大な魔法陣が書かれていた。魔法陣は赤黒く点滅を繰り返している。
それを観察していると不意に近づいてくる足音が聞こえた。
(やべぇ! 誰か来やがる!)
俺様は慌てて近くの藪へ隠れた。
現れたのは二人の魔族の男だ。どちらも身なりがいい。指揮官か?
片方は若く腰に帯剣しており、もう片方は中年で書類の束を持っていた。
「人間どもは今頃勝ったつもりでいるのだろうな。」
「でしょうな。我々が見せていた戦力は先の戦闘でほぼ損耗しましたので。」
そう言いながら書類を数枚めくる。
「よもや召喚陣を使って戦力を呼び寄せているとは思うまい。」
「新たに開発したこの召喚陣で一度に大量の兵を呼び寄せることが可能です。すでに十分な兵力を呼び寄せました。魔石の大量消費がネックですが、効果は絶大でしょう。」
「では、最後の仕上げと行くか……。」
魔族の男が何か呪文のようなものを唱えると魔法陣はより輝き始めた。
ドクンドクンドクンドクン
何か脈打つように光る魔法陣はまるで生きているようで、先ほどより一層不気味に見えた。
「―――”来い!”」
魔法陣から黒い炎のような物が沸き立ち、それは魔法陣の中央へ集まり巨大な球体を作った。
ドクンドクンドクン
魔法陣の点滅に合わせ、その球体もまた脈打っている。
ドクン!!
一際強く脈打つと球体は内側からはじけ飛び、中から巨大な人型の魔物が現れた。
俯き屈んでいる姿で5mはありそうだ。立ち上がれば10mを超えそうだ。
巨人は半裸で革の腰巻をつけている。肌は濁った血のような色をしている。
「
「この
「初代ならともかく、今の弱体した王家でこいつは止まらんよ。」
そう言うと魔族の男はすらりと剣を抜いた。
「どうやらネズミが入り込んでいるようだ。この我をもってしても気づくのが遅れた。神の加護だな。厄介なものだ。」
(やばい! 見つかった!)
俺は全速力でそこから逃げ出した。
いかに俺様が英雄とは言え、素手で武器を持った複数の魔族と渡り合うことは出来ない。
足の速さには自信がある。
全力で逃げれば追いつけないはずだ!
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