第51話 重傷者


戦争はその激しさをさらに増しているようだ。

最近では、錬金班のテントまで戦闘の音が僅かだけど聞こえてくる。

ハンネさんの話だと陣の維持や予備兵力もまだまだ問題ないそうだ。


そんな中出来るだけ多くのポーションを作れるよう日々頑張っている。

力持ち疑惑を払拭するため、中級ポーションの作り方を教わった。


(私の取りえはポーション作り……決して腕力ではない!)


ポーション運搬には台車を活用し、力持ちでないアピールを欠かさない。

そして精製に関して、私のMPは結構多い方のようで、1日作り続けていても枯渇することはない。

そのため、ハンネさんと二人、居残りしてちょっとでも多くのポーションを作るようにしている。


いつものように居残りでポーションを作っている時のことだった。

テントへ駆け込んできた人がいた。

何事か? と思ってみると医療班の人だった。

ずいぶん急いでいるようで呼吸が荒い。


「ハァハァ、夜分すいません! 怪我人が多数出てしまってポーションの在庫が心もとないのです。ある分、在庫をいただけませんか?」


それを聞いてからのハンネさんの行動は早かった。

素早く立ち上がるを私にポーションを在るだけかき集めるよう指示した。

それと同時に医療班の人に声をかける。


「怪我人が多いなら人手が必要だろう。ポーションは私たちが運ぶから先に行っててくれ。」


「分かりました。助かります。」


来た時と同じように慌ただしく出ていく。

二人でポーションを集め、ハンネさんは自前のカバンを引っかけるとポーションが入ったケースを持った。


「エステルも着いてきてくれ。人手が必要かもしれない。……一応言っておくが、加護は決して使うわないように。」


「わかりました。」


私も残りのポーションを持ってハンネさんに続く。

医療班のテントが見えてくる。

慌ただしく人が動いているのが見える。テントの周りにもけが人が溢れていた。


(あの大きなテントに入りきらないなんて……。)


医療班のテントは何度か訪れたことがある。

100人は余裕で入りそうな大きなテントだったはずだ。


「うぅ……。ドジしたな。」

「痛い、治療はまだか?」

「誰か、ポーションを……。」


近づくとけが人の呻き声や治療を望む声が聞こえてきた。


「エステル、治療は医療班に任せる。……ポーションを全員に配ってやりたいが数が足りなそうだ。重傷者を優先しよう。」


「……はい。」


母乳を使えば、全員助けられる。

しかし、そのあと私がどのような扱いを受けるのかわからない。

私は周りに溢れている声をなるべく聞かないようにしてハンネさんに続いた。


医療班のテントの中は喧噪に包まれていた。


「軽傷者は外で待っていてくれ! 重傷者を中へ!」

「ここを押さえてくれ。」

「痛み止めと麻酔を!」


いつもより人が多い。医療班の人はもちろん、外部からも応援が駆けつけているようだ。

ハンネさんはテントの中をぐるりと見渡し、先ほど駆け込んできた男性を見つけた。


「ポーションを持ってきたぞ。」


「ありがとうございます! こちらへお願いします。」


男性に医薬品の保管場所まで案内してもらい、棚にポーションを並べていく。

前見たときはギッシリと並べてあったポーションが数えるほどしかない。


「これで全部だ。ここの人手は……足りているようだな。我々は戻ってポーションの精製に当たる。」


「よろしくお願いします。」


確かに人手が足りているならここで手伝いをするより、戻って私たちにしかできないポーション作りを行った方がよさそうだ。

出口に向かっているその時、すれ違うように運び込まれた男性がいた。


「おい! しっかりしろ!」


運ばれた男性の付き添いの人が必死に声をかけている。


「うぅ……。」


運ばれてきた男性は意識が混濁しているようだ。


「先生! 早く見てくれ!」


「分かった! …………ダメだ。助からない。」


駆けつけた医者の先生が項垂れるように告げる。


「そんな! 上級ポーションとかいろいろあるだろう!?」


「ここまでの傷だと上級ポーションでも治らない。」


「回復魔法は!」


「……上級ポーション以上の回復魔法の使い手はここにはいないんだ。」


「なんとかならないのか! ……こいつは俺を庇って……」


間近で起きた医者の先生と男性のやりとりから目が離せない。

戻ってポーションを作るべきだ。それは分かっているけど……。


(母乳なら治せるかもしれない。)


そう考えると体が前に進まない。

私はどうしたらいいのだろう?

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