第50話 こ、これは……恋?


エド様が呼んだ兵隊によりロブは連れていかれた。


「彼は志願兵とは言え、軍規に従う義務がある。そしてエステルさんはボランティアなので民間人扱いだ。軍人が軍務中に民間人を襲ったんだ。かなり厳しい罰になることだろう。」


エド様の説明を受け、ほっと一安心。

これでもうロブに付きまとわれることはなさそうだ。

エド様に錬金班のテントまで送ってもらう。


(どうしよう……心臓が痛いくらいドキドキしている。)


ちらっとエド様の顔を盗み見る。

さらさらとした柔らかそうな金髪、きりっとした眉、そしてお父さんと同じ眼差し。


(かっこいいなぁ)


「うん? どうかしたかい?」


私が見ていることに気が付いたエド様が覗き見るように見つめてくる。


「い、いえ! 何でもないです……」


「そうかい? 気分が悪くなったらすぐに言うんだよ。」


(やさしいなぁ)


エド様はちょっとした段差があるとさっと手を差し伸べてくれるし、天幕の入口をおさえ、私を先に入れてくれる。


(紳士だなぁ)


「エステル、遅かったな、うん? あなた様は……」


「ハンネ女史、実はですね――」


エド様は事情をハンネさんに説明してくれた。

私が遅くなった理由を説明してくれてフォローも忘れない。


(素敵!)


ぽーっとエド様を見つめていると不意に声をかけられた。


「では、エステルさん、僕はこれで失礼しますね。」


「は、はい! ありがとうございました!」


さわやかな笑みを浮かべ、小さく手をあげて天幕から出て行った。

私はそれにお辞儀をし、小さく手を振って見送った。


「エステル、話は聞いたぞ。……大変だったな。」


ハンネさんは心配そうに私の顔をする。


「いえ、大丈夫ですよ。素敵でした。……フフフ。」


エド様の活躍を思い出し、笑みがこぼれる。


「え? 素敵? ……まぁ、いい。それより同じ村の猟師の男だったな? エステルを押え込むほどの腕力の持ち主だったのか?」


ハンネさんが聞き捨てならないことを言う。

私を押え込むほどってなんだ? まるで私が力持ちみたいじゃないか。


「そうですね、エステルさん凄く力持ちですからね。それを押え込むなんて……」


錬金班に所属する若い男性がそれに続く。


「力持ち?」


なんでそんなことを言うの?


「いや、エステル。先ほど運んだポーション4ケース。成人男性より重いからな? それを軽々運んでいるんだから力持ちだろ?」


ハンネさんから衝撃の事実が!

重さなんてほとんど感じなかった。


「あれ……、そんなに重いんですか?」


「「「……うん」」」


居合わせた人達が一様に頷く。というか若干引いてる。

そう言われてみればポーションは液体だ。それがあれだけぎっしりとケースに詰まっているのだから重たくないはずがない。

なんでこれが軽々持てるのだろうか?


「エステルはそこそこレベルが高いからな。それのせいだろう。」


――レベルアップって凄いんだな。

あれ? 私一人でロブと戦えたのかな? どうだろう? 確か凄く動きが遅かったような?

戦うとしたら魔法だし、魔法が使えることが隠せということで結果オーライよね!

……そういうことにしておこう。


数日後、エド様が私を心配し、時間を見つけて訪ねてきてくれた。


(嬉しい!)


嬉しいのだけどエド様の顔を見ると胸がドキドキしてしまう。

緊張して上手くしゃべれない。

私はどうしちゃったんだろうか? 

あれかな? ばれるのが怖いからかな?

……実は一人でもどうにかなったかもしれませんなんて言えないよね。

なんかまるで気を引くためにわざと襲われたみたいなっちゃってない? イタイ子かな?


「ポーション4ケースですか……、凄いですね。」


怖くなったのでエド様に全部話した。

やっぱりちょっと引かれている……。悲しい。


「いえ、力は関係ありませんよ。どれだけ実力があっても恐怖で身がすくめば動けません。練習で強かった人が実戦であっさりやられてしまうなんてことは良くあることです。」


「そうなんですか……。」


ガタガタ震えて何もできなかったのは、私が特別ダメだったわけではないようだ。


「それと僕はエステルさんの涙を見ていますからね。あなたが望んであのような状況なったとは思えませんよ。」


確かあの時は涙で顔がぐしゃぐしゃだった。

それを思い出すと恥ずかしい。


「あ、ありがとうございます。」


「恐怖で心を支配されるというのは中々厄介でしてね。過去にあった事例なのですがとあるご夫婦がいて、旦那さんから奥さんは日常的に暴力を振るわれていました。」


「日常的に……ですか?」


「えぇ、奥さんは家の中で動きを制限されるような拘束具……手錠のような物ですね、それをされているわけでもないのに、仕返しどころか外に助けを求めることも出来なかったのです。」


「それは一体何故でしょうか?」


「何をしても無駄ということを心に植え付けられてしまうと――心を折られてしまうと抵抗できなくなるようなのです。一緒に暮らしているのですから旦那さんの隙を伺えば仕返しもできるはずなのです。」


「確かに隙はいろいろありそうですね。」


「例えばですが……旦那さんの寝ている間にば熱した油を掛けるとか、火を付けるとか。過激な内容ですけど腕力は関係なく、確実に仕返しができます。」


「確かに……」


「結局そのご夫婦は旦那さんの過剰な暴力により、奥さんが亡くなっています。殺されてしまうような状況で反撃できるような隙があっても何も出来ないものなのですよ。恐怖とはそういうもののようです。」


「そうするとどうしたらいいのでしょう?」


「対策は難しいですね……。まずはそのような状況にならないようにすることが大事です。エステルさんが望むのでしたら専用の護衛を用意しようと思いますがいかがしましょうか?」


「い、いえ! そこまでしていただかなくても大丈夫です!」


「そうですか……、では次同じようなことが起きたら、エステルさんの力で相手を押し飛ばして全力で陣の中央へ逃げてきてください。僕の名前を呼んでくれればすぐに駆け付けますよ。」


すぐに駆け付けますよ――にはキュンときた!

でも、私の力でって……。エド様にも力持ち認定されてしまった……。

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