第49話 ピンチ!


戦いは徐々に激化しているようでポーションの消費が増えている。

ミーティングで撤退のタイミングについても話が出ている。

ハンネさんは陣が維持できている間、撤退は考えていないようだ。

ただ、個々の意見は尊重するとのことで、撤退したい人は申し出てほしいとのこと。

今のところ撤退しようとする人はいない。


「街には家族がいる。ここが抜けられたら家族に被害がでるかもしれない。だからギリギリまで踏ん張るつもりさ。」


「息子が兵隊やっていてね。ちょっとでも近くにいてやりたいのさ。」


「国の貢献度を記録してもらえるだろう? 自立する時に店や工房を持つ許可がおりやすくなるんじゃないかってな。とは言え、デリグラッセがなくなっちゃ意味がないから最後までいるよ。」


みんなここにいる理由がある。そうじゃなければわざわざ危険な場所まで来ないよね。


夕方になり、仕事がひと段落したあと、私は出来上がたポーションを兵站部隊へ届けに行く。

中級以上のポーションの在庫の減りが早いようでギリギリまで精製している。

となると初級しか作れない私の手が空きがちなので雑用を率先して買って出ている。


陣地は夕焼けに染まる。

設置されているテントの影は長く、陣地に闇を落としている。

夕飯時だからだろうか? 人通りが疎らだ。


(なんかちょっと怖いな。)


寒さもあってか妙に孤独感を感じる。

ポーションを届け終わり、足早に帰路を急ぐ。

その道中、唐突に腕を引っ張られた。


「え!?」


そして誰かの手で口を乱暴に塞がれた。


(な、なに!?)


「ようやく一人になったな、エステル」


(この声は……ロブ!?)


どうやら私はロブに羽交い絞めにされているようだ。

生暖かい息が首筋にかかる。

口を塞ぐ手は荒々しく力任せに抑え込んでいる。

突然のことによる驚きと、恐怖と嫌悪感で何が何だかわからない。


「お前は俺の物だ。勝手に村から逃げるなんて許さない。」


かつて村で襲われた時のことが鮮明に思い出される。

――男の人には腕力で敵わない。

あの時に感じた無力感や不快感。恐怖で動かなくなってしまった身体。それらを思い出し、当時と同じように体は固まって動かなくなってしまった。


(今度こそ、暴行されてしまう!)


深く、暗い絶望が心を覆う。


何でこんなことをするのか?

何でそんな風に思えるのか?

ロブの考えが全く理解できない。


(怖い……)


何を考えているか分からない人と言うのは怖い。

人に危害を加えるということは普通躊躇するものではないのだろうか?


「お前が誰のものか、お前の身体にたっぷりと教え込んでやるよ。」


ロブは腕をつかんでいた手を離し、私の胸を掴み、揉みしだいた。


(き、気持ち悪い。)


ロブに触れらえた場所はまるでナメクジに這いずられたような気持ち悪さを感じる。

より一層身体は強張り、言うことを利かない。


「うぅ……」


「げへへへ。」


成されるがままになってしまう悔しさに涙が溢れる。

ロブはそれをみて愉悦からか下品な笑い声を上げた。

さらにロブは腰を私のお尻に押し付けきた。固いものがあたる。

その行為のおぞましさに鳥肌が立つ。

恐怖と嫌悪感で頭がどうにかなってしまいそうだ。


「何をしている!」


その時、凛とした声が響いた。

声のした方を見るとそこにはエド様がお1人で立っていた。


「あぁ? なんだてめぇは。取り込み中だ。どこか行きやがれ!」


「彼女は嫌がっているように見えるが?」


「嫌がってる? これは喜んでるのさ。なんたって俺様が触ってやっているんだからな。」


「……君に何を言っても無駄のようだね。」


エド様はそう言うと腰の剣を抜いた。


「その汚い手をエステルさんから離せ、さもなければ……。」


「上等だ! てめぇみたいなヒョロヒョロに負けるか」


「きゃ!」


ロブは私を投げ出すと腰のナイフを構えた。

私はそのまま横倒しに倒れてしまった。


「エステルさん! 女性になんてことを!」


「こいつは俺の物だ! 俺がどう扱おうが指図される言われはねぇ!」


夕日が二人の横顔を照らす。

エド様は油断なく、ロブはヘラヘラしながらだらんっと構えている。


「いくぞ、おら!」


ロブが声を張り上げ、エド様へ向かっていく。


(あ、あれ? ロブ遅くない? エド様の油断を誘っているのかな?)


エド様もあまりの遅さに驚いているようだ。

しかし、ロブは何を勘違いしたのかニヤリと笑いナイフを振るう。


「死ね!」


エド様はそのナイフをギリギリでするり交わし、ロブの後ろへ回った。


「ど、どこ行きやがった!?」


ロブにはその動きがさっぱり見えなかったようだ。

エド様は完全に見失っているロブの後頭部を剣の柄でガツンっと殴りつけた。


「がは!」


その一撃で完全に意識を刈り取られ、ロブはそのまま倒れ伏した。

エド様はロブを油断なく見据えたあと、剣を鞘に納めた。

エド様は私の前まで歩いてくると片膝をついてそっと手を差し出した。


「大丈夫かい?」


夕日に照らされ、世界が茜色に染まる。

エド様の金髪はキラキラと輝き、その瞳はお父さんと同じ優しい眼差しで私を見つめている。


「は、はい。」


返事をし、差し出された手をそっと握り返す。

触れた手は暖かく、その熱はまるで私の全身のこわばりを溶かしていくように感じた。

その包まれるような温もりに私の心臓はドキンっと大きく跳ねたのだった。



<あとがき>

ロブ

Lv    7

職業   狩人見習い

HP   40/40

MP   0/0

力    13

素早さ  14

体力   12

器用さ  12

魔力   0


エステルがパニックを起こし、腕を振り回したりしていればロブはワンパンで沈んでいました。

過去の経緯から思い込みで自分より圧倒的に強く敵わないと考えていただけです。

これは対人戦経験がほとんど無いことも起因しております。

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