第47話 望まぬ再会


ハンネさんは毎朝、兵站部隊の軍議に参加している。

その結果をもって錬金班のミーティングを行う。


「え~、肉の調達について部隊長からお褒めの言葉をいただいた。……シロ、ありがとうな。」


ワン!


これにはみんなも苦笑い。

いよいよもってお肉部隊になりそうだ。


「それと戦争はまだ小競り合い程度で、本格化していない。こちらの動きが早く、陣も築かれているため攻めあぐねているようだ。ポーションの在庫は減っていないが材料は送られてきている。各員決められた組みに別れて作成に当たってくれ。」


「はい」「わかった」「了解」


みんな思い思いの返事を残し作業へ取り掛かっていく。

作成するポーションの難易度で組み分けも行った。

私は素人みたいなものなので初級ポーションを作成している。

MPの関係もあって夕方には作業を終えるようにしている。


「あ、エステル、シロと共に散歩も頼むな。今日は北地区辺りを回ってほしいとのことだ。」


「はい。」


私はポーション作りの他に別の仕事もある。

それはシロを連れての散歩だ。

軍というのは縁起を担ぐものらしく、白い犬のシロはどこへ行っても非常に有難がられる。

散歩していると一撫でさせてくれっと言う人たちが後を絶たない。

あまりの人気で自分の部隊に来ないことに一部で不満が出ているらしく、散歩コースを毎度指定されるようになってしまった。

依頼というか、お願いに近いけど。

散歩はお昼休みに行っている。そのあと、シロは狩りの時間だ。

最近近くの獲物を狩りつくしてしまったせいか、遠くの魔の森まで出かけているようだ。


動物はともかく、シロが魔物を倒していることについて何か言われないか戦々恐々としていたが杞憂に終わった。

なんでも上からシロについては見て見ぬ振りをして一切を不問とするよう指示が出ているそうだ。

これはハンネさんが兵站部隊の部隊長から聞いた話で、何かあったら部隊長に上申してほしいとのことだ。


今ではシロ専用の獲物置き場を設置してもらい、それを運んで解体する要員を兵站部隊から出してもらっている。

シロの分と私たちが食べる分は最優先で分配してくれているので、こちらとしてもいろいろ手間が省けて助かっている。

この前、キングボアを捕まえてきたらしく、牙や毛皮、魔石の処遇について相談があった。

全く必要としてないので、自由にしてもらって構わないと伝えると非常に感謝された。

兵站部隊で装備に加工し、必要な部隊に配布するとのこと。


そんな感じでシロについての心配ごとが一つ減って、気もだいぶ楽になっている。

あとは私の魔法や加護がバレないように注意するだけだ。


シロを連れて散歩へ向かう。

北地区は今回初めて回る。

いつものように人が集まり、シロを一撫でしていく。中には拝んでいる人までいた。

そうやって北地区の陣を散歩していると不意に声をかけられた。


「エステルじゃないか!」


「え?」


名前を呼ばれ振り返るとなんとそこにはロブがいた。

村で乱暴されそうになった恐怖が思い出され、身体がこわばる。


「な、なんで……。」


胸が苦しい、呼吸がうまくできない。


「なんでだと? それはこちらのセリフだ。村を逃げ出してどこにいるかと思えば戦場にいるとはな。」


「ろ、ロブはなんでここに?」


「一旗上げるためさ。俺の偉大さを示すには丁度いい戦だ。魔族だろうがなんだろうか全部倒して英雄になってやる。」


ギラギラした目を向けられ一層恐怖を感じる。


ワン!! ガルルルゥゥ


シロが強い調子で吠えた。そしてロブに対し唸り声を上げる。


「なんだこの犬ッコロは? 俺に逆らう気か?」


ロブはシロを睨み返し、腰に下げていたナイフに手を添える。

一瞬即発の雰囲気。

そこへ横合いから声がかかった。


「ロブ! 何している! 集合に遅れるぞ。お前が偵察に志願したんだろうが!」


苛立たし気なその声にロブは振り向く。


「チッ、邪魔が入ったな。」


ロブはそういうと構えを解いて呼ばれた方へ向かっていった。

去り際にこちらを振り向き「逃がさないからな」と言い睨みつけてきた。


ゾクゾクゾク!!


背筋を這う途轍もない嫌悪感。

気持ち悪さに目がくらむようだ。


くぅ~ん


シロが心配して私を見上げている。


「あ、ありがとうね、シロ。」


シロがいなかったらどうなっていたことか。

今度こそ本当に乱暴されてしまう!

慌てて部隊に戻りハンネさんに相談する。


「エステルを村で乱暴しようとした男が志願兵で参加していたか。……シロ、構うことはない。今度エステルが襲われそうになったら倒してしまえ。」


ワン!


ハンネさんの言葉に元気よく返事をするシロ。


「ハンネさん、シロは勝てるでしょうか?」


「エステル、そいつは猟師なんだろうがシロに勝てる猟師なんていないぞ? 」


ハンネさんはちょっと呆れたような声でそう言った。


「え? そうなんですか?」


「魔の森にすむ魔物の牙や爪でも傷つかないんだぞ? 鉄のナイフなんてまず傷をつけられないさ。騎士の本気の一撃ですら難しいだろう。」


言われてみるとそうかもしれない。


「出歩くときはシロから離れないようにすることだ。それ以外でもなるべく1人にならないように。」


「わかりました。」


ハンネさんから言われた通り、シロから離れないように気を付けよう。

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