第46話 錬金班
<エステル視点>
おっぱいちゃんかぁ
凄い呼び名で呼ばれてしまった。
逆にあそこまでオープンな言われ方をすると不快じゃないかな。
「あの騎士様たちが一緒ならちょっと心強いね。シロもそう思うでしょ?」
わふん
シロは何やら不満げで、尻尾は振らずにぐいぐい頭を押し付けてくる。
そのあと役場のロビーでしばらく待つと名前を呼ばれ会議室へ案内された
あれこれ説明されてその日は帰宅となった。
陣地が完成していないため、今すぐ行っても何も出来ないどころか邪魔になってしまうそうだ。
「せっかく来ていただいたところ大変申し訳ありません」
役人さんは恐縮しきりといった感じだ。
大急ぎで整えているので3日後に再度役場に集合し出発する運びとなった。
ロビーでハンネさんと合流する。
「え? ハンネさんも帰れるんですか?」
「あぁ、そうなんだ。すぐ戦地に向かうと思ったんだがな。どうも私の配属は急遽変更があったらしい。」
話を聞けば同じく3日後に役場へ集合とのこと。
昨日、結構大袈裟に最後の晩餐だーっと思って盛り上がったのに……。
いや、いいんだけどね。猶予がもらえたのは本当にありがたい。
「猶予が出来た間に準備を済ませよう。道具類は用意されるようだが着替えとかは別だからな。嗜好品も支給がほとんどない。息抜き程度の物は用意していったほうがいいぞ。お茶とか飴とかチョコとかな。」
家に帰り、ハンネさんのアドバイスに沿って荷物をまとめる。
一度戦場を経験しているハンネさんのアドバイスはありがたい。
3日間かけていろいろ買いそろえる、
一時期、食材不足なども起こったようだがすぐに隊商が到着し、緩和したようだ。
今は街の様子も一旦は落ち着いているように見える。
あっと言う間に三日が過ぎ、役場にやってきた。
すると二人とも同じ会議室に通された。
そこで役人さんから説明を受けるにはどうやらハンネさんがポーションを作成する部隊――錬金班のリーダーらしい。
この部隊は基本ボランティアという立場になるそうで、国への献身はしっかりと記録される。
その代わりポーション1個当たりの生産費用は発生せず、材料や時間、MPの許す範囲で指示に従って作ることになる。
指示系統で言えば兵站部隊の一部となり、何を何個作るかの大まかな指示は兵站部隊から出るそうだ。
ただ撤退の判断はハンネさんに一任されるらしく、その場合はハンネさんが魔法兵として私たちの安全を確保することになるそうだ。
(あれ? これはかなり安全なのでは?)
「皆さんはポーションを精製できる貴重な技術をお持ちです。無理に戦場で粘る必要はありません。余裕を持って撤退していただいて問題ありません。その場合、戦争終結までデリグラッセ内にてポーション精製のボランティアを継続していただけますと助かります。」
これには参加している人たちは一様に安心した様子だ。
そのあと、細かい確認や質疑応答があり、馬車で移動となった。
1日ほど移動し、陣地へ到着する。
私たちの配置は比較的後方のようだ。
本日は到着したばかりということもあり、施設や道具の確認などに当てられるとのことだ。
錬金班を集めてのミーティングを行う。
「皆さんとまとめやくとなったハンネです。若輩ものですがよろしくお願いします。」
「魔法学園を卒業された方に指揮してもらうなら不満はない。よろしくお願いしますよ。」
「頼もしい限りです。」
「私たちでは戦争の判断は出来ませんしね。」
「ハンネ女史と言えば、あの美容薬の?」
年配の薬師さんが代表して答え、班の皆さんもそれに同意した。
「せっかくの機会です。私の知識で良ければお教えしますよ。」
これには皆さん大喜びで早速勉強会のような形になってしまった。
ハンネさんはハンネさんで得意分野の話ということもあり非常に盛り上がった。
その過程で道具の確認や参加した人たちの得意分野もわかり結果として非常に有意義なミーティングとなったようだ。
さてご飯の時間になり、配給が行われる。
しかし、これが問題だった。
「麦粥一杯ですね……。」
「窯が出来てないんだろう。……塩もちょっと薄いな。まぁ戦地において食べれるだけありがたいものだよ。」
「これじゃ力でないんじゃないですか?」
「いや、身体を動かす部隊はそれなりに出ているだろう。士気に関わる。民間のボランティアに関しては一律でこうなんだろうな。」
確かに私たちは戦うわけじゃないし、いざとなったらすぐに逃げても良いと言われている。
それだけ恵まれた状態なのだから贅沢を言うわけには行かないよね。
きゅーん
ただシロには全然足りないよね。
道中は持参した肉を渡していたけど、さすがにもう生肉はない。
「ハンネさん、シロのリード外して狩りにいかせていいですか?」
「う~ん、そうだな。ちょっと確認してくるから待っててくれ。」
そう言うと麦粥はささっと食べて本部がある方へは歩いて行った。
しばらくしてハンネさんが帰ってきた。
「自分で狩りをする分には構わないそうだ。ただ、犬のリードは陣の外で外してほしいとのことだ。」
「わかりました。行こうか、シロ。」
門番をしている兵隊さんにハンネさんが事情を話し後方から陣の外へ出る。
シロのリードを外してあげるとワン! と一声吠えて駆け出した。
あっと言う間に見えなくなり待つことしばし。
シロは大振りの猪を捕まえて帰ってきた。
「毎回思うんですけど、こんな大きい猪、シロはよく持って帰ってこれますね。」
「あぁ、まったく器用な者だ。咥えたまま飛ぶように跳ねて帰ってくるからな。」
その場でシロに後ろ足を両方と内臓あげて、残りについてはシロに了解を貰って陣地へ持ち帰った。
レベルアップのおかげで手で持ち運ぶこともできるのだけど、台車を借りて運んだ。血で汚れるのも嫌だからね。
水浴びや洗濯も早々出来ないし……。
持って帰った肉をさばき、同じ班のみんなで食べる。
みんな大変喜んでくれたが、食べきれなかった。
そこで周辺の部隊の方へおすそ分けで配った。これもまた大喜びされた。
そして――毎食こんな感じで肉を配っていたら私たちの部隊は錬金班でポーションを作っているのにお肉部隊として有難がられることになってしまった。
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