第45話 再会

<エドワード視点>


魔法兵に関する打合せで役場まで来た僕は見知った顔を見つけた。


「あれ? 君は……」


白い犬を撫でている女性。


(あの美しいオーラの女性ではないだろうか? 何故こんなところに?)


今の役場は戦争準備でごった返している。

志願兵に物資の輸送、さまざまな情報が飛び交い、すでに戦場のようだ。

若い女性が来るような場所ではない。


「あっ、あの時の騎士様!」


どうやら彼女は覚えていてくれたみたいだ。


「おや、おっぱいちゃんじゃないか。」


「お、おっぱいちゃん?」


サムが失礼な呼び方をしたため、女性は戸惑っている。


「サム、女性に対してそのような呼び方は失礼だろう。」


「ダン、お前だっておっぱいが大きいことに同意してたじゃないか。」


「あれはサムがそう振るから……。」


ダンをからかうサム。

身内でじゃれ合って女性を放置して置くわけにもいかない。


「連れが失礼したね。それで君はどうしたんだい? 役場に何か用事かい?」


「えっと、ポーション作りのため戦場へ行くんですけど、その打合せ……なのかな? それを待ってます。」


僕の問に対する彼女の回答は予想外のものだった。


「ポーション作りで戦場?」


「はい、なんでも現地の医療体制を万全にするよう指示が出ているようで、その一環とのことですよ。」


……僕が出した指示だ。

まさかこんな形で実行されているとは。

確かに原材料を運ぶ方が様々な面で楽だ。原材料は多少雑に扱っても問題ないし、現地調達もある程度可能だ。現地でポーションを生産できた方が効率はいい。ポーションをふんだんに使えれば死者は確実に減らせるだろう。

一点……、重要なことを確認しなくては。


「それは……徴兵されたのかい?」


「い、いえ! 自ら志願した形ですね。叔母が魔法兵として徴兵されたのでどうしても叔母と離れたくなくて……。あ! えっと、その!」


「いや、いいよ、大丈夫。『国家に奉仕するのが義務だ』などとは言うつもりは無いよ。それよりも肉親への情はとても大切なことだ。」


とりあえず強制的に徴兵されたので無くてよかった……。

王家の者は発する言葉に注意しなければいけないと教わっていたが、こういうことか……。

指示を受けた側としては最大限、命令を実行できるよう考えてのことだろう。

どのようなことは望まないかはっきりとした線引きを用意すべきだった。

しかし、結果が気に入らないからといって、今更安易に撤回も出来ない。

そうしてしまえば新旧の指示が入り交じり、現場は大きく混乱してしまうことだろう。

また僕の言葉が軽んじられる原因になりかねない。


確かこの子は天蓋孤独の身だったな……。

魔法使いギルドの場所を尋ねていたと記憶している。

叔母をあてにして街へ出てきた……ということか。

両親が死に、せっかく会えた叔母が徴兵されてしまう――心細いことだろう。

そこが戦場でもついていきたくなる気持ちは分かる。


「君の叔母の名前を聞いてもいいかな?」


少しでも配慮できるよう名前を聞いておこう。


「叔母の名はハンネといいます。」


「ハンネ? あの美容関係の魔法薬で有名な?」


「おそらくそうだと……。」


ハンネ女史の魔法薬のファンは多い。

私の母もファンの1人だ。

以前、ハンネ女史を誘拐し監禁しようとした貴族の令嬢は夜会で僕に振り向いてほしくて美容薬を求めたという。

直接の関係は無いものの後ろめたさはある。

貴族の暴走を許してしまった責任の一端は監督する王家にあるとも言える。

これらは……配慮にたる理由になるかもしれないな。


「そうだ、今更だけど、俺はサム、こっちはダンで、こちらがエド。よろしくね。」


「えっとエステルです。よろしくお願いします。」


あれこれ思考している間にサムが僕たちを紹介してくれた。


「エステルさん、こちら白いのは獣魔でしょうか?」


ダンがエステルさんの足元にいる白い狼について聞いている。

僕もそれは気になるところだ。


「獣魔? いえ、たぶん普通の犬だとおもいますけど。森で拾った子犬を育てたんです。」


「なるほど、そうでしたか。強い魔力を感じたので……。魔力が強い動物もいなくはないのでその一種かもしれませんね。」


強い魔力を持った白い犬……。

もしかするともしかするかもしれない。


白い犬がワンと一声鳴いてエステルさんに頭を擦り付ける。


「よしよし、どうしたの? シロ。」


それに対し愛おしそうに頭を撫でるエステルさん。

シロと呼ばれた白い犬は嬉しそうに尻尾を振っている。


(きっとエステルさんに構ってほしくて甘えているんだな。)


飼い主と飼い犬という以上の絆が、そこにあるのは見て取れた。

幼いころより初代様の活躍を聞いて育った。

そのためか聖獣様に対する憧れは凄く強い。

だけど、権力や力でこの絆の間に割って入るべきではないことはよくわかる光景だ。


「エド、そろそろ時間です。」


「うん、ではエステルさん失礼しますね。」


「じゃあね、エステルちゃん。また戦地でね。」


「あ、はい。皆様、またです。」


エステルさんと別れ役場の会議室へ向かう。


「まさかあの指示がこのような結果になるとは。」


ダンも苦い顔を隠せない。


「役人に罪はないさ。指示が曖昧だったのが良くなかったな。」


「全くもってその通り。僕はまだまだ未熟者だ。」


サムの言葉に同意し、己の不出来を恥じる。


「あの白い犬――シロと言ったかな? 余計な気を使わせる者が出ないとも限らない。早々に釘を刺しておくこととしよう。」


貴族や役人がゴマをするために縁起物として白い犬の献上を迫る――そんなことにならないよう周知をしっかり行っていこう。



<あとがき>

エドワードは前にエステルを助けて指輪をあげた王子様です。

魔力は何も人間だけの物ではないです。

そのため魔力が強い動物や虫なんかもいます。

ただ有効的に活用できるのは人間くらいなものです。

意識して使い方を練習し、1年くらいはかかる技術です。

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