第4章 戦争

第44話 街の様子


ハンネさんとシロと共に役場へ向かう。

街中を行くためシロには首輪とリードをつけている。

シロはとても賢く、人に噛みついたりなどしないのだけど他の人から見たらそんなことは分からない。

大型の犬を首輪無しに連れ歩くのは、他の人から見たら怖いことだろう。

シロは大きくなったことでなんというか……ちょっと狼っぽい顔立ちで初見の人には怖くうつると思うんだ。

……暑い日にお腹を上にしてわふわふ言いながら寝転がっている姿を見ている私からしたらそんなことは無いんだけどね。


道中見かける景色は昨日までとは一変していた。

落ち着きがなく、騒然としている。

あちこちに布告の看板が出てており、それらには人だかりが出来ていた。

今日、突然掲示されたそれには魔族との戦争について書かれてあるようだ。


「皆さん慌ててますね。」


「戦争などと突然言われればそうもなるだろう。」


「なんでもっと早く伝えなかったのでしょうか?」


これは前から疑問だった。


「おそらくこちらが奇襲に気が付いているのを隠すためだろう。」


「奇襲?」


「魔族領からこちら側――デリグラッセ方面を攻めるには山脈が邪魔をしている。大軍を通すことが出来ない。魔族側はなんらかの手段でこれを突破したのだろう。しかし国は事前に察知することができたようだ。だから隠れて準備を進めていたのだろう。」


「えっと、なんで隠れて準備を?」


「あぁ、それは奇襲に気が付いているって事がバレると当然そのまま攻めてこない。奇襲でなくても勝てるように兵数を揃えてくる。沢山の兵数で攻められるより少ない兵数で攻めてきてくれた方が楽だからな。」


「なるほど。」


「国としてはバレている場合も考え準備していることだろう。ただバレなければそれに越したことはない。今、慌ただしく動いているのは国とは関係の無い商人だろうな。逃げるか商機ととらえるか、そんなところだろう。」


見渡してみると足早に動いているのは商人風の人が多い。

街の人達は戸惑うばかりのようだ。

冒険者っぽい人達はなにやら話こんでいる。

そんな景色を後目に役場へ向かった。


役場に入ると中は非常に賑わっていた。


「倉庫へ備蓄の確認に向かって!」。」

「39番の方! 受付までお願いします。」

「志願兵の方は2番窓口まで!」

「輸送路の選定急げよ!」


みんな忙しそうに動いている。


(志願兵の募集もあるのね。)


布告の掲示板にその内容も記載されていたようだ。

この街には冒険者さんも多くいる。

その人達が参加してくれれば心強い戦力となることだろう。


ハンネさんは役人さんと打合せのため別室に向かっていった。

私はポーション作り担当の後方支援ということで、また別口なるらしい。

そのため、ロビーでその案内が出るのを待っている。

シロが一緒にいるからか、非常に目立つ。


「おい、見ろ。白い犬だぞ。」

「魔族との戦争を控えて、こりゃ縁起がいいな。」

「聖獣様の祝福を……。」

「あの子、すごく胸が大きいな……。」


役人さんが言っていた通り、白い犬はかなり人気があるようだ。

あと、認識阻害の指輪をつけていないことで久しぶりに胸への視線をびしばし感じる。


(思った以上に目立っちゃっているな。ハンネさんとの取り決めをしっかり守らないと。)


戦争においてどのように立ち回るかハンネさんと話してある。

その内容としては以下の通り。

・私は極力魔法を使わない。

・ただし、危険が迫ったら迷わず使うこと。

・母乳は人前では絶対に使わない。他人の命が関わっても使ってはいけない。

・シロは普通の犬として振舞う。

・面倒ごとには首を突っ込まない。ただポーション作りに専念する。

・戦況が危なくなったらすぐに逃げる。


私が神聖魔術の使い手だと分かると前線に駆り出される恐れがあると言う。

私としてはハンネさんと肩を並べて戦えるならそれはそれでいいのだけど、これ以上我がままを言う訳にはいかない。

母乳に関しては兎に角隠すことにした。

緊急事態も相まってどのような扱いを受けるか全くわからないとのこと。

国に貢献するためにはオープンにした方がいいのだろうけど、そこまでの愛国心は私たちにはなかった。

例え目の前で死にそうな人がいたとしても母乳は使わない。

ハンネさんからも懇願するように言い聞かされてしまった。

ハンネさんに心配かけないためにもこれをやぶるわけには行かない。

シロに関しても神聖属性を扱える犬なんて聖獣様と勘違いされてしまう可能性があるという。

最悪、王家に差し出さなければならない可能性もある。

シロが聖獣様なんて立派な存在の訳が無い。だって森の中で拾った捨て犬だし……。

ちょっとおかしな力があるけど、それを言ったら魔物だってそうだ。

変な勘違いされてシロと――家族と離れ離れになりたくない。

シロにはよーく言い聞かせたのでたぶん大丈夫。

実は人間じゃないか? て思うくらいシロは私たちの言葉を理解している。


シロは犬なのでしゃべれない。

ついつい余計なことを言いそうになる私より大丈夫なことだろう。

悲しいことにハンネさんのシロへの信頼は私よりありそうな気がする。

そして私自身、そうかも? と思ってしまうところがある。

……頑張って魔法のことやら母乳のことがバレないようにしよう。


戦況が危なくなったとしたら……ハンネさんには悪いけどこれは守れないかもしれない。

帰るならハンネさんと一緒がいい。

最悪、魔法もシロの力も使ってハンネさんだけでも一緒に帰るように頑張るつもりだ。


ハンネさんとの約束事をつらつらと思い出しながらシロの頭を撫でていたら声を掛けられた。


「あれ? 君は……」


フードを目深に被った3人組。

マントの留め金には騎士の紋章……。


「あっ、あの時の騎士様!」

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