第43話 徴兵
シロを拾ってから数か月経とうしていた。
季節は夏から秋を経て、そして冬に向かっている。
朝ともなれば肌を刺すような寒さを感じ、なかなか布団からはいでることが出来ないでいる。
シロは今ではすっかり大きくなり、私の腰ぐらいまである。
横に寝そべって並べば私とほとんど同じくらいだ。
耳はピンっと立ち、厚く大きい。口には立派な牙が並んでいる。足も太く力強い。
シロは大型犬? ……うん、ちょっと狼っぽいかな? まぁ魔物じゃなければ大丈夫でしょう!
毛並みは真っ白で、陽光の下では光り輝いて見える。
撫でるとするりと気持ちいい手触りが返ってくる。
シロはまだ私と一緒にベッドで寝ている。
寝返りをうたないで寝ることにもかなり慣れた。
今ではそれほど辛くもない。
シロは抱きつくととても暖かく気持ちいい。
今の季節はとてもありがたいけど、夏場のこんな感じだとちょっと困るかな。
シロは自分で扉の開け閉めも出来る。
上手に前足を使って扉のレバーを倒しながら押し開けている。
開けっ放しにしないでちゃんと閉めるのも偉い。
シロは大食いだ。
子犬のうちは母乳だけでよかったのだけど、最近は生肉を沢山食べる。
森に行ったついでに魔物の肉を持ち帰っていたのを与えていたのだけど最近はシロが魔物を自分で捕まえてくる。
いないな? と思ったら一匹でふらっと森に行っているようだ。
一度追いかけてみると外壁をぴょんっと飛び越えているのを見たことがある。
数度壁を蹴り、駆け上がるように飛び越えていた。
ただそんなことをして衛兵さんに捕まらないか心配だ。
シロ一匹だけで森にいくのは 危ないって思っていたのだけど、そんなことは無かった。
二人と一匹で森へ連れだって行ってみるとシロは魔物を簡単に倒していた。
すっと気配を消し獲物へ近づき、素早い動きで一瞬の間に間合いを詰めて、的確に急所に噛みつく。
他の魔物から反撃を受けては素早い身のこなしでこれをかわし、攻撃を受けてもシロの毛並みが輝き、攻撃をはじいていた。
最後には遠くにいる敵に向かって吠えたかと思ったら口から光を発し、その光で魔物を倒していた。それはまるで私が使う魔法の”聖弾”みたいな効果だった。
「白い犬……、神聖属性っぽいブレス……、まさかな……。」
「……シロって犬なのですかね?」
難しい顔をしてシロを見つめているハンネさんに聞いてみた。
「う~ん……、精霊か何かが犬型をしているのか……、それとも犬に何かが宿っているのか。どちらにせよ神聖属性持ちなら悪いものではない。調べようも無いからな。気にしなくてよいだろう。」
と言っていた。それを受けて私も気にしないようにしている。
シロが犬でなかったとしてももう大切な家族だ。
新しい家族が増え、戦争はちょっと心配だけどシロがいることで気がまぎれる。
平穏な日々が続く。
これがずっと続いてくれたらと思ったのだけど長くは続かなかった。
寒さが一段と厳しい朝、来客があった。
出てみると魔法使いギルドの受付の人と、もう一人立派な服装の男の人がいた。
「ハンネ女史は御在宅かしら?」
「はい、中に入ってお待ちください。」
リビングに案内し、何時かと同じようにハンネさんを迎えに行く。
ハンネさんが応じ、リビングに3人が座り対面している。私はお茶をいれて回った。
「ハンネ女史、私は役場よりやってきました。あなたに魔法兵としての徴兵令状が出ています。」
男の人がそういうと懐から一枚の紙を取り出し、ハンネさんの前に出した。
私は思わずハッと息を飲んだ。
「……魔族との戦争ですね。」
「はい。」
「魔法使いギルドとしても支援が決定しています。」
男の人が答え、魔法使いギルドの受付のお姉さんが補足する。
「では断る理由はありません。参戦いたします。」
「……ハンネさん、行ってしまうのですか?」
そうだとわかっていたけど、聞かずにいられない。
「あぁ、魔法学園を卒業した者の義務だ。断るわけにはいかない。」
ハンネさんに行ってほしくない。だけど国の決まりなら守らないわけにもいかないだろうし。
私は俯き、何も言うことが出来ないでいた。
「ゴホン……、ハンネ女史、まことにすみませんが情報をお持ちでしたら教えてほしいことがあります。ポーションを作れる人材に心当たりはないでしょうか? 」
「……それはどう言った意味で?」
ハンネさんは緊張した様子で答える。
「今回の戦争では皇太子殿下が指揮を取らます。殿下は死者をなるべく出したくないとお考えで『現地での医療体制を万全にせよ』とご指示を出されております。これを受けましてポーション作成できる人材の確保を進めております。」
役人さんが説明してくれる。ポーションを作成できる人? 私作れる……。
「魔法使いギルドに所属している方々にはこちらで声をかけさせていただいています。魔法薬の権威であられますハンネ女史の個人的な伝手を頼っての質問になります。」
受付のお姉さんが続けて言う。
これ……、一緒に行ける?
「……そのような人物に心当たりは……」
ハンネさんは私に行ってほしくないのだろう。
だけど……!
「はい! 私作れます! ハンネさんに教わりました!」
「な! エステル! 何を言っている!」
ハンネさんが焦ったような声を出して私に怒鳴る。
「私もハンネさんと一緒に行きます! 行かせてください。私の家族はもうハンネさんだけなんです。離れ離れは嫌です。」
「遊びに行くんじゃないんだぞ!」
「……それは分かってますけど。」
「分かっていない! 戦争なんだぞ!」
「前、ハンネさんは大丈夫って、戦争には勝てるって言ってたじゃないですか! なら私が行っても……。」
確かハンネさんは「悲観することはない」と言っていた。
「少なくない犠牲が出るんだ。……私が参加した戦争では魔法兵の死者は2割を超えている。そんな場所に連れていけない。」
話が違う!! 全然大丈夫じゃないじゃないか!
「!! そんな2割って! それなら猶更私も行きます。……もう……1人は嫌です……。」
涙ながらにそう言う私にハンネさんも気まずどうな顔をして黙る。
しばらく沈黙が続いたあと、役人さんが話始めた。
「ご家族の問題に横から口を出すことをお許しください。ハンネ女史、ポーション作りを担当していただく方々は後方支援となります。また、例え逃げ出したとしても脱走の罪には問われません。むしろ非戦闘要員ですので率先して逃げていただくことになるでしょう。お命を保証する……とは言えませんがどうか国家にご協力いただけないでしょうか?」
「ハンネさん……お願いします……」
役人さんの援護を受け、必死にお願いをする。
「シロはどうするんだ? あの子も一匹だけにするわけには行かないだろう。」
あわわ! 確かに!
「あ、あのお役人さん! 犬なんですけど連れて行っては駄目でしょうか? 」
「お名前から察するに白い犬でしょうか?」
「はい」
「ならば問題ありません。むしろ連れてきていただきたい。白い犬は吉兆で特に魔族との戦争では兵たちの士気に関わるほどです。」
「ハンネさん、お願いします。」
祈るように手を組んでハンネさんに頭を下げる。
「……わかった。一緒に行こう。その代わり危ないと思ったらシロと一緒にすぐ逃げるんだぞ。」
話はまとまり、役人さんと受付の女の人は「明日役場に来てほしい」と伝え帰っていった。
その日の夕食。
交わす言葉は少なく進んでいく。
(戦争で何かあったらこれが最後の晩御飯の記憶になる。……喧嘩したみたいな空気が思い出に残るのはちょっと嫌だな。)
「ハンネさん、無理言ってすいませんでした」
なんとか関係の修復を期待して謝ってみる。
……でも戦争に行くことは撤回はしないけど。
「……、いや、実はエステルの申し出はうれしかったんだ。」
ハンネさんは観念したようにつぶやいた。
「え?」
「実は私も戦争に行くのはかなり怖い。……見てくれ、今から手が震えている。1人で行くのは本当は心細かったんだ。」
震える手を上げながら続けた。
「ただ姉さんの1人娘をそんな危険な場所に連れていくわけには行かない。……姉さんに顔向けが出来ない。そうも思う。結局そう思っていたのに一緒に来てくれると言ってくれたことにほっとした。うれしかった。エステルの手を取ってしまった。私は醜い人間だ……。」
ハンネさんはとても辛そうだ。
「それなら私はハンネさんのお役に立ちたいって思っていたのに一緒に行きたいと言って困らせてしまいました。私の方が醜いです。ハンネさんの希望は理解していたのに……。」
「エステルの気持ちはわかる。……一人残されるのは嫌だよな。」
私は黙って頷いた。
「こうなったら必死にあがいて生き延びよう。そしてまたここで一緒に暮らそう。」
「はい!」
そうなれることを願って私は元気よく返事をした。
<あとがき>
エステルのステータス
Lv 28 up!
職業 聖女
HP 217/217 up!
MP 602/ 602 up!
力 73 up!
素早さ 71 up!
体力 53 up!
器用さ 101 up!
魔力 415 up!
シロ
Lv 25 up!
職業 聖獣<オオ・カミ>
HP 271/271 up!
MP 410/410 up!
力 95 up!
素早さ 101 up!
体力 98 up!
器用さ 73 up!
魔力 311 up!
※シロはエステルの従魔扱いですのでシロが倒した魔物の経験値もエステルに入ります。
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