第42話 犬のいる生活

<エステル視点>


(えへへ~、ワンちゃんだぁ)


ずーっと前からペットは飼いたかった。

だけど、村長さんから援助してもらっている身の上で飼うなんて出来なかった。


白くてちっちゃくてモフモフで。

つぶらな瞳でこちらを見上げて一生懸命尻尾を振っている


「可愛いなぁ、可愛いなぁ」


こんなの可愛いとしか言えない!!


「あ、お風呂にいれて上げなきゃ!」


森で拾ってきたままの状態だ。

ちょっと血で汚れているところもあるからしっかりと洗ってあげないと。


一緒にお風呂に入ってワシワシと洗ってあげると見違えるほど綺麗になった。

白い毛並みは輝かんばかりにぴかぴかだ。

触り心地もより柔らかくなっている。

シロはどうやらお風呂は大丈夫のようで気持ちよさそうにしていた。


「毛は……生え変わるよね? そうなるとブラシがいるな。」


ペットを飼うというのは結構物入りだね。


「ブラシはどれくらいの頻度だろうか? 散歩も行かなきゃだな。しつけもしないと。」


今まで家事の他は自分時間だったけど、シロのことも考えて時間を使わないと。


シロのためにベッドとなる籠を用意し、寒くならないよう毛布を詰め込んであげる。


「さぁ、シロはこっちで寝ようね。」


シロを籠に入れて私はベッドへ向かう。

すると悲しそうな声できゅ~んと鳴いた。


「えっと……、一緒に寝る?」


おいでと手招きすると キャン! と嬉しそうに鳴いてベッドまでやってきた。

抱え上げベッドの隅に置くと、尻尾を振りながら近づいてくる。


「よしよし。 ふぁ~、疲れた。じゃぁ寝ましょうか。」


ベッド横にある光の魔道具を弱め、ほんの少しだけの淡い光にする。

そして布団に潜りこむとシロは私に尻尾を振りながら近づいてきて私の腕を枕にコテンっと寝転がった。


「えっと、シロさん? それだと私寝返り打てないんだけど……。」


そう言ってもシロはどいてくれない。すでに気持ちよさそうに寝息を建てている。

シロの頭が私の腕の上にある。


「動いたらシロをつぶしちゃう。寝返りを打たないようにしないと。」


私はそんなに寝相良くないんだけどなぁ……。


(くっ! でも可愛い! 頑張るしかない!)


その日は緊張しながらもなんとか寝ることが出来た。

翌朝、一切寝返りを撃たずに朝を迎えることが出来た。

人間、意識すればなんとかなるものだ。代償として私の体はバッキバキで全然寝れた気がしないけど。

シロはまだ寝ていたので起こさないようにそっと体を離す。

しかし、シロは目が覚めてしまったようで一度目が開いた。だけどわふ~とか言いながらまた目を閉じて眠りだした。

そんなシロを優しく撫で、朝食の準備に向かった。


朝食の後、家事を行う。

シロはどこへ行くにもちょこちょこついてい来る。

可愛いのだけど、家事の時は正直ちょっと邪魔だ。

洗濯籠を抱え、足元が良く見えないときにも足にじゃれつかれると本当に困る。

うっかりすると踏んでしまったり蹴飛ばしてしまうかもしれない。


「ちょ、ちょっと、じゃれつかないで!」


思わず声を荒げてしまった。

きゅ~ん 悲しそうに鳴いて上目遣いで見上げてくる。


「あぁ! 怒ってない、怒ってないよ!」


籠を床に慌てて置いて、頭をなでなでして必死にご機嫌取りをする。

それが嬉しかったのか尻尾を振って答えてくれた。


「えっとね、踏んずちゃうかもしれないから足元には来ないでね。ちょっと後ろを着いてきてくれるかな?」


うーん、言葉が通じたらいいのだけど流石に無理かな?

シロはきゃんっと一声吠えて私の後ろに回った。


「え? わかったの? ……ありがとね。」


偶然かな? わからないけどそれ以降、私が家事をしている時は後ろからついてくるようになった。


(うちの子は凄く賢いのかもしれない!!)


さて、家事も終わってポーション作り。

……材料がないや。

足元ではシロが遊んでほしそうにこちらを見上げている。

遊んであげたいけど、遊んでていいものだろうか?

戦争のこともある。ちょっとでもポーションを作って貢献したい。魔法使いギルドに材料の入荷が無いか確認しに行こうかな?


「う~ん……。」


「どうしたんだ? うなり声なんか出して。」


迷っていたらハンネさんがやってきた。

あれ? どうしたんだろう?

何時もなら実験室にこもりきりになっているのに。


「えっと、ポーション作りたいのですが材料が無くて。……あとシロが遊んでほしそうなのでどうしようかと。」


「材料を使い切るほど頑張ってくれたならもう自由にしていいんじゃないか? シロと遊んでやったらどうだろう?」


「いいんですか!」


「あぁ、いいとも。それとこんなの作ってみたんだ。どうだろう?」


そう言ってハンネさんは布を縫い合わせて作ったボールを渡してきた。


「いいですね! これ! どうしたんですか?」


「いや、なに。ここ最近、根を詰めポーションばかり作っていただろう? シロのことを考えていたら気が付いたらボールを作っていたんだ……。」


ちょっと恥ずかしそうなハンネさんが可愛い。

そのあと、皆と庭で遊んだ。

私たちがボールを投げるととても嬉しそうに飛び跳ねながら拾ってくる。

その姿に私は勿論、ハンネさんもメロメロだ。


「いいものだな……。犬って。」


「ほんとですね……。」


久しぶりに穏やかな時間を過ごせた。


「一緒に遊ぶのは楽しいけど、毎日となると大変だな。散歩もあるしブラシ掛けや風呂にも入れてやらないといけないだろう。今は小さいが大きくなるにつれ大変になるな。」


「……そう言われてみればそうですね。」


散歩途中に動かなくなっちゃうワンちゃんを一生懸命連れ帰ろうとして頑張っている飼い主さんを見たことがある。

あれが毎日だと大変そうだ。


「そこは分担してなんとかやっていこう。」


「いいんですか?」


「家族だからな……。当然のことさ。」


ハンネさんはやっぱりとても素敵な人だ。

そして寝る時間になり、またシロは私の腕を枕にコテンとしてしまった。


(これ……、毎晩寝返りがうてないのかな……。)


ちょっと……、いや、だいぶ辛い。

そのうち慣れるだろうか?

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