第39話 子犬


「はぁ……びっくりした。」


いや、まさかヘビとはね……。

あのうねうね動く様子がどうにも苦手。

それに毒を持った種類かもしれないしなんとも言えない嫌悪感を持ってしまう。

顔はよく見ると可愛いんだけど……。


きっと認識阻害の指輪を着けたままなのがいけなかったんだな。

普段は野生の動物なんかは近づいてこない。

ヘビもあそこに私がいるとは思わなかったに違いない。

思いっきり投げ捨ててしまったけど悪いことをしてしまった。


薬草も手に入らないし、もう帰らないとハンネさんを心配させてしまう。

……ってここはどこだろう?

びっくりして闇雲に走り回ってしまった。

ステータスを引き上げる”祝福”を使っていたのも悪かった。

きっと飛ぶような速度で移動してしまったはずだ。


(道から大きくはずれちゃった…… あぁ! どこだかわからない!)


ハンネさんからは迷子になったら合流するまで動かずに待っているようにと言われていたけど、今は一人だ。

自分自身でどうにかしないと。


「えっと森は街の北側にあったから南に向かえばいいんだよね。」


そんな独り言を言って見るも、はたと気づく。


(うん……、南はどっちだ?)


だいぶ日も傾いてきており、太陽の位置が木々に邪魔されて見えない。

とりあえず立ち止まっていても仕方がない。

来た方向に迎えば元の場所に戻れるはず。


「たぶん……、こっちかな?」


”生命探知”の魔法と使いながら進む。

今度はヘビも感知対象に入れる。


(こんなにヘビっているのね……。調べなきゃよかった……。)


森に生息するヘビの多さに辟易しながら進む。

なんとか認識阻害の指輪の効果範囲からヘビを外して、こちらに気づいてもらうようにする。

そうするとやはりヘビの方から逃げて行ってくれる。


怖いのは出会いがしらの遭遇だ。びっくりしても走り出さないようにしないと。

魔物にも気づかれていないだろうから近づいても反応が敵意に変わることもない。

認識阻害の指輪に対して、思わぬ弱点を見つけちゃったな。


しばらく進むと開けた場所に出た。


「わぁ、綺麗な湖。」


北の山から流れてくる川の水が溜まり、湖となっているようだ。

西日が湖面にキラキラと反射してとても綺麗。

あ、西はあっちか……。

すると私は南に向かうつもりで北に向かっていたのね。


これで方向はわかった。

とりあえず南に向かって、森さえ抜けてしまえば何とかなるよね。きっと。


「それにしても本当に綺麗な場所。」


季節の花々が咲き乱れ、森の中にいてぽっかりと広く空が見える。

魔物が出なければピクニックにもってこいの場所だ。


ふと視界に隅に違和感を覚えた。

湖の淵に何か白いものが見える。


「あれは……? 何だろう?」


近づいてみてみるとそれは傷だらけの子犬だった。

白っぽい毛皮は泥と血で汚れている。

サイズは私の両手の平くらいしかない。

”生命探知”に親らしき生き物の気配を感じることは出来なかった。


「大変! ……でもどうしよう?」


魔物の子供かもしれない。

人襲う魔物ならば助けたところで……。


ふと、デリグラッセに向かう途中で見た前足のないガリガリの子猫を思い出した。


あの時の苦い気持ちが思い出される。

私は今とても幸せだ。自分ばかり幸せになって助けられる命を見捨てるのか?

そう今ならば――、今の私なら助けることが出来る。

見殺しにしなくて済む。

仮に魔物だったとしても一度助けてそのあと考えればいい。

普通の子犬かもしれないんだ。あの時の後悔を私は二度としたくない。


(よし! 助けよう!)


急いで子犬の元へ向かう。

胴体が動いていることでほんの僅かばかりに呼吸しているのが分かる。

”生命感知”の魔法にも非常に弱々しい気配を感じ取ることが出来た。


「ちょっと待っててね、すぐに治してあげるから!」


母乳を入った革袋を取り出そうとしてふと気が付いた。

母乳が入った革袋がない……。

辛うじて鉈は残っているが水袋も採取した薬草を入れる鞄も無くなっている。


「落としたんだ……。」


きっと闇雲に走っているときに落としてしまったのだろう。

私は回復魔法は使えない。ポーションの持ち合わせも母乳があるから持っていなかった。


「どうしよう?」


迷っている間に刻一刻と子犬の生命力が衰えているのが”生命感知”でありありと分かる。


「躊躇っている時間は無いよね。」


私は急いで魔法使いのローブと上着を脱いだ。

乳房に魔力を送り母乳を出す。

指で拭いとって子犬の傷にそっと塗った。

するとみるみる傷は塞がっていく。抱え上げ全ての傷に母乳を塗っていく。

しかし、一向に”生命探知”への反応は変わらない。弱々しいままだ。


子犬はびっしょりと水に塗れている。

きっと湖に落ちてしまったのだろう。

温めるように抱きかかえ、どうしたものかと試案する。


「あ、内臓が傷ついている場合だと外側に塗っても効果が弱いってハンネさんが言ってたような。」


確か飲ませる必要があるって……。


乳房に再度魔力を集め母乳を出す。

そして子犬の口を乳房に近づけ、何とか飲ませようとしてみる。


「飲んで……。お願い……。」


ポタポタと流れ出る母乳は子犬の口に入るもののすぐに流れ出てしまう。

飲み込む力が残ってないのかもしれない。


「一口だけ……、ね、がんばって。」


ちょっとでも飲み込んでくれれば多少は回復するはず。

根気よく母乳を子犬の口へ垂らしつづけていると僅かばかりに舌が動き母乳を嘗めとった。


「やった!」


小さく喜びの声が出る。

そこからは見る見る回復していった。

最初の一口を嘗めとった後、そのあと数回同じように弱々しく嘗めていたが次第に動きはハッキリとしたものになり、今は乳房へ吸いつくようにぺろぺろ嘗めとっている。


「……ぅん、……あん」


くすぐったくて変な声が出てしまった……。恥ずかしい……。

きっとお腹が空いているのだろう。

乳房に魔力を送り母乳をドバドバと出す。

子犬は一所懸命に舌を動かし綺麗に嘗めとっていく。

”生命感知”で確認するとしっかりとした気配を感じた。

これならもう大丈夫そうだ。


<あとがき>

名無しの子犬

Lv    1

職業  聖獣<オオ・カミ>

HP   12/12

MP   100/100

力    5

素早さ  5

体力   5

器用さ  5

魔力   101


書き溜めが付きました・・・明日更新できるかは残業のあるなしにかかっております。(たぶん無理そう・・・)

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