第36話 ポーション作り


<エステル視点>


ハンネさんの研究は順調らしい。

私の母乳を研究し、少しでも似た性質を持つ薬草を洗い出し、それと既存の薬をかけ合わせるといった実験を行っているとのこと。

そのため、多数の薬草を必要としているので、頻繁に森へ行くようになっていた。

2回目以降の探索は私も順調にこなせている。

こなせているもののあまり役に立っている気がしない……。

森へ行き、数日研究を行い、また森へ。

そんなサイクルが出来上がってしばらくたった時、お客さんがやってきた。


コンコン


「すいませーん。ハンネ研究員。いらっしゃいますか?」


ドアをノックする音と共にそんな声が聞こえてきた。

声は若い女性のものだ。

私が居候させてもらってから初めてのお客さんかもしれない。

洗濯をしてくれる魔道具に洗濯物と石鹸をいれ、起動させてから小走りで玄関に向かう。

ハンネさんはこの時間研究中だ。

お手間取らせないようにしないと。


「はーい」


返事をしながら扉を開けると魔法使いギルドで地図を書いてもらった受付の女性が立っていた。


「あら、あなたは……。」


「あ、あの時は地図を書いてくださりありがとうございました。」


「いえいえ、どういたしまして。」


そう言うと女性は優しく微笑んでくれた。


「あの、ハンネ研究員は御在宅ですか?」


「はい、ハンネさんは実験中だと思います。どうぞ中に入ってお待ちください。」


そう言って受付の女性を招き入れ、リビングに座ってもらってお茶を出す。

ハンネさんを呼びに行くと丁度部屋から出てきたところだった。


「来客があったようだな。」


「魔法使いギルドの受付さんでした。お話したいことがあるそうです。」


「魔法使いギルドが? 何だろう? 研究の報告は問題なく提出しているんだがな。」


疑問を顔に浮かべながらリビングに向かう。


「お待たせしてすまない。要件を聞こうか?」


「すいません、内容が内容ですのでお人払い願えないでしょうか?」


「ふむ……、エステル、すまないが……」


「はい、分かりました。洗濯の続きをしてますね。」


私は部屋を出て、洗濯の魔道具へ向かう。

丁度洗濯が終わったところだったのでそのまま脱水の魔道具に洗濯物を移し、起動させる。

洗濯物が凄い速度で回転し、水分を飛ばしていく。

一個一個絞らなくて済むので大変助かっている。

この脱水の魔道具、別に見ている必要はないのだけど、何となく見続けてしまうのよね。


脱水された洗濯物を庭で干していると、魔法使いギルドの受付の人が帰る姿が目に入った。

洗濯を終え、リビングへ向かうと難しい顔をしたハンネさんがいた。


「どうしたんですか? 何かあったのですか?」


「いや……、うーん……。」


ハンネさんは言い淀み何かを考えているようだ。

せかしてもしょうがない。じっと答えを待つ。


「……エステル。作り方を教えるからポーションを作ってみないか?」


「え? ポーションですか?」


「うん、作り方を知っていれば職にあぶれることもないからな。どうだろう?」


ポーションの造り方は知りたいけど、どうしたんだろう?

そちらの疑問の方が強くて返事がするっと出てこなかった。


「唐突にそんなことを言われて、戸惑うのもわかる。魔法使いギルドからの要請で大量に必要になったんだ。私一人では作れる量に限界がある。手伝ってもらえないだろうか?」


え! 私で役に立てる!? ハンネさんのお手伝いが出来る!

薬草取りに森へついていけてるけどあまり役に立てている気がしてなかったんだ。


「やります! やらせてください!」


恩返しが出来るならぜひやりたい。


「うん、では早速やってみよう。まずは回復薬用の魔力中和剤の作り方からだ。」


そう言うとハンネさんは透明の瓶に入った黒い物体を取り出した。


「ラダの根を乾燥させたものだ。これを細かく砕く。」


瓶から数個取り出し、乳鉢に入れゴリゴリと砕いていく。


「砕き終わったらこれと混ぜる。これは蒸留水から魔力的要素を抜いたものだ。下手に魔力の強い水を使用すると属性がそちらに引っ張られポーションとして機能しなくなる。気を付けるように。」


メモ帖に聞いた内容をどんどん書いていく。


「あのその蒸留水はどのように作るのですか?」


「魔法使いギルドに行けば購入できるが……、そうだな、今後品薄になることも予想できる。他の材料についても1から作り方を説明するか。」


ハンネさんの役に立てる!っと張り切ってみたもののこの後、全ての素材を1から説明を受け若干後悔した。


材料は森での採取である程度馴染みがあったものの器具に関してはまるっきり初めて見る物ばかり。

しかも種類が本当に多い! 手順も複雑!

自分の頭の悪さをまじまじと思い知ることになった。

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