第34話 レベルアップ! ……とキングボア
「大丈夫か?」
「は、はい。」
私はガタガタ震えていた。
(怖かったぁぁぁ。)
練習で戦ったゴーレムは吠えなかった。何よりハンネさんが見てくれていたので死ぬことはないとたかをくくっていた所もあった。
それに……
(魔物はなんて恐ろしい目をしているんだろう。)
村ではさんざん女性陣に睨まれてきた。
敵意を持った視線には慣れているつもりだったけど、それとは違っていた。
あれが殺意って言うのかな?
見られただけで死んでしまうのではないかと思った。
「……無理をする必要はない。ここで引き返すか?」
ハンネさんが優しく問いかけてくる。
(……帰りたいけど、ハンネさんが1人で危険な森を歩くことになっちゃう。)
「……エステル。魔物と戦うのは初めてか?」
「えっと、はい。そうですね。」
「それなら怖いのは当たり前だ。本当に無理する必要はないよ。」
「で、でも……。」
お世話になっているハンネさんのお手伝いがしたい。
……まるっきり足手まといでしかないのだけど。
「初めから上手く出来るわけないさ。……あれだけ練習したんだ。次は上手くやれるよ。」
冷静に考えてみると怖がらないで練習通り動けていればよかったんだ。
怖がって防御魔法が疎かになってしまったからピンチになってしまっただけ。
「……そうですね。もうちょっと頑張ってみたいです。」
「うん、それがいい。それに次はもうちょっと楽に戦えるはずだよ。」
「えっと、2回目だからですか?」
「それもあるけど……そうだな。何か力が湧いてくるような感じはないか?」
「え? 力ですか? そう言われてみるとちょっと身体が熱いような?」
戦い直後は怖いやら緊張やら興奮していたりでよく分からなかったけど、カッカするような感じがして身体が熱い。
「うん、魔物を倒すことで強くなれるんだ。それをレベルアップという。創造神様から祝福を得られるだとか、魔物の力が流れ込んでくるとか所説いろいろあるが どういった原理なのかはハッキリとしていない。」
「そんなことが!?」
魔物を倒すだけで強くなれる? そーいえば、誰かそんなことを話していたような……。
魔物と戦うなんて自分とは関係がないと思っていたから聞き流していたかもしれない。
「そう口で言われただけでは実感がないよな。そうだな……、思いっきりジャンプしてみなさい。」
「ジャンプですか? やってみます。」
その場で思いっきり飛び跳ねてみる。
ふわっ
「え?」
身体が軽い! 浮遊感とともに高くなった視線で物が見える。
見下ろすと目の前にいた筈のハンネさんのつむじが見えた。
地面に足が着く。かなり高くとんだはずなのに衝撃をほとんど感じなかった。
「うん、だいたい1mくらい飛べたな。」
「そんなに!?」
「ほら、踏み込んだ足跡を見てごらん。かなりえぐれているだろう?」
ハンネさんに言われた通り、飛び跳ねた場所を見てみると地面に深い足跡がついていた。
「それだけ力が地面にかかったってことさ。」
「これを私が?」
信じられない! 運動はかなり苦手だったのに。レベルアップって凄い!
ハンネさんが言うには力も強くなっているし身体も丈夫になっているとのこと。
魔物を倒せばまだまだ強くなれるらしい。
これに気をよくした私は先程の恐怖もすっかり忘れ、探索を続行することにした。
先程のように”生命探知”をかけながら進む。
それほどたたないうちに強い敵意を感じた。
「ハンネさん、結構離れているんですけど敵意をもった生き物の気配がありました。……こっちへまっすぐ近づいてきてます!」
……ドドドドッ
遠くのほうから僅かに感じる地響きと共に足音が近づいてくる。
「うん、これはキングボアだな。大きな牙が特徴の猪型の魔物だ。この森で最も高い攻撃力を持つといわれている。」
「え!? ど、どうしましょう!!?」
「エステル。防御魔法だ。何があっても切らさないように。」
「は、はい! ”聖壁”!」
防御魔法を展開し、構える。
ドドドドドドドドドッ!!
地響きもはハッキリと感じ、地面が揺れ始めた。
時折、木をなぎ倒しているのか バキッ! とか ドカッ! という音も聞こえる。
グワァァァァン!!
ビリビリと肌に刺さるような咆哮。
レベルアップで感じた興奮も一気に冷めた。
「来るぞ! 気をしっかり持って! 」
木々の切れ間から姿が見え始めたと思ったらあっと言う間に距離が詰まっていく。
大きい! 高さだけで3mくらいありそうな猪が凄いスピードでまっすぐこちらを目指してくる。
大きな牙で固い生木を棒切れのように薙ぎ倒し一切スピードを緩めない。
ガァァァアア!
(こ、怖い!)
途轍もない巨体が迫ってくる恐怖。
身体を芯から寒からしめる咆哮。
私はすっかり腰が引けている。
心は恐怖で染まり、軽いパニック状態だ。
(防御防御防御防御……)
それでもなんとか先程の失敗を繰り返さないよう防御魔法に魔力を注ぐ。
目の前に迫る巨体にいよいよ駄目だと思ったとき、ハンネさんの落ち着いた声が聞こえた。
「大丈夫。沢山練習した自分を信じて。エステルの防御魔法なら何も心配ないよ。」
ハンネさんがそっと背中に手を添えて支えてくれた。
そこから暖かいものが全身を包んでくれたような気がした。
「魔力を杖に」
「はい!」
ハンネさんに支えられたまま杖に強く魔力を注ぐ!
ドカーーーン!
光の壁に魔物がぶつかり、凄まじい音がした。
音に思わず目をつむってしまった。
(えっと……防御魔法は破られていない。)
恐る恐る目を開けると光の壁は健在だ。
(魔物は?)
衝撃で舞い上がった土煙がおさまると倒れ伏した魔物の姿があった。
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