第32話 準備


「エステル、行くぞ。」


「はい!」


私は今、森の中にいる。

森と言っても家の周囲にある伐採されずに取り残されている森だ。


「”生命感知”」


私は短縮詠唱で魔法を発動する。

魔法は使いなれ、イメージをハッキリと持つことで短縮可能だ。

生命感知は生命ある物の場所を知ることができる。

森で視界が遮られている状況で敵を見つけるのに必要な魔法だ。

私の周囲を4つも敵意を持った生命体が囲んでいることが分かった。

この敵意を持った生命体はハンネさんが生み出した練習用の魔法生物……ゴーレムだ。

土が基本の材料なためかすぐボロボロと崩れてしまう。


「”聖光”」


察知した敵意に向け、私の手から放たれた光が次々を打ちぬいていく。ずぎゅーんっとね。

この魔法はなんと狙いをつけなくても自動で敵意に飛んで行ってくれる。

とても便利!

周囲にあった4つのゴーレムをすべて倒すことが出来た。


私は止まっている的に当てるだけならなんなく出来たのだが動いている物に当てることがなかなか出来なかった。

沢山敵がいた場合はもうどうしたらいいかわからなくなっちゃう。


(私って結構どんくさい……?)


そこで見つけたのが神聖属性の中級魔法である”聖光”だ。

沢山練習したので中級魔法も短縮できるようになった。


「”炎弾”」


ハンネさんの声が響く。

私に向かって炎の玉が飛んでくる!


「せ、”聖壁”!!」


慌てて神聖属性 中級の防御魔法を発動させる。

私を周囲を薄い球状の光の壁が覆う。

ハンネさんが放った魔術がそれにあたり四散して消えた。


「うん、まぁ上出来かな。……まだ攻撃されることに慣れてないみたいだな。」


防御魔法に包まれながら思いっきり腰が引けている私がいます。


「すいません……、やはり怖くて。」


自分に攻撃魔法飛んでくる状況に慣れるっていうのもちょっと嫌だけど……。


私たちは森で戦う訓練中だ。

ハンネさんが魔の森に行く際に同行したいと申し出たら最低限の訓練が必要ということでこうなっている。

ハンネさんは私を魔の森へ連れていくつもりはなかったみたい。

私に魔法の技術を教えたのもいざという時、自身の身を守れる程度に魔法を使えるようになってほしかっただけのようだ。

だけど私がどうしてもハンネさんを手伝いたいと熱望し訓練してもらっている。


魔の森は危険だと言うなら、いくら慣れているとは言ってもハンネさん1人よりも何か役に建てると思うんだ。


最初に魔法を使ってから1ヶ月。みっちりと練習を行ってきた。

【癒しの母乳】

この加護の新しい力が発見できた。

なんと魔法を使う力……MPも回復するのだ。

ハンネさん曰く「あり得ない」ことらしい。

なんせ私が母乳を生み出すのに使うMPより回復するほうが圧倒的に多いのだ。

小皿1杯程度の量で私のMPは全快出来る。

MPが最大の状態で生み出せる母乳の量は小皿10杯分。

明らかにおかしい……けど加護ってそういうものじゃないかな?

だいたい母乳でなんでもかんでも癒されることがおかしいのだから今更だ。

そもそも何で母乳なのか……。やっぱり考えるだけムダな気がする……。


そんなわけでMPのことを考えずにひたすら練習が出来たというわけだ。

神聖属性の扱いだけなら魔法学園卒業くらいの実力らしい。

まだまだ経験不足はぬぐえないけど、まぁなんとか形になってきているよね?。


森へ行く初日。日の出とともに出発する。


私の装備一式はまたハンネさんにお金を出してもらってしまった。

丈夫なズボンとブーツ、それに魔法使いのローブと魔法の威力を高めてくれる短い杖。

水筒や摘んだ薬草を入れる鞄と腰に下げる鉈。

なんで魔法使いが鉈を持つ必要があるのか疑問だけど、森に入るなら必須らしい。


街から外へ。

衛兵さんに市民証を見せ、目的を告げる。

こうすることで帰りが遅いときなどは探索を出してもらえる可能性があるという。

あくまで可能性で、衛兵さんが必ず助けに来てくれるわけじゃないみたい。


市民証は役場で発行してもらった。

ハンネさんに私の分の市民税金を払ってもらい、私はデリグラッセ市民となった。

冒険者ギルドや魔法使いギルドの所属証などでも良かったらしいのだが、ギルドに所属することでメリットもあるがどうしても義務が発生する。

それに私が魔法を使える理由を説明するのが難しい。

そこから加護のことがバレる可能性もある。


衛兵さんに私が同行することに心配されたがハンネさんが王都の魔法学園を卒業したと分かるとすんなり通してくれた。

ハンネさんは「軍属になった経験が豊富というわけではないので詳しいことはわからんが……」と続けた


「魔法学園卒業生は有事に際し、魔法兵として戦えるよう訓練を受ける。そのため予備役だが下士官の扱いだ。私が同行を許す判断をしているのだから衛兵が意見を言えることではない――となるのだろうな。」


魔法兵……、戦争が始まったらハンネさんも兵隊さんとして戦争に参加しなければ行けないということだろうか?

ハンネさんと暮らす日々は平穏でとてもうまくやれている。


(ようやく平和な生活ができるようになったのにそんなことになったらいやだなぁ。)


街を出て、森へ続く道へ分け入っていく。


「足元が固められているのは冒険者や猟師がよく通ることで固められた道と獣道がある。そらら以外は一見大丈夫そうでも沼のようになっている場所もある。落ち葉が降り積もっている場所は特に注意して進もう。」


人がやっと1人通れるかどうかといった道に木の枝が道をふさぐように伸びている。

ハンネさんは腰に下げていた鉈を抜き、道を切り開きながら歩いていく。


ハンネさんからとにかく常に”生命探知”を行い、敵がいたら”聖膜”で防御するよう言われた。

最初は攻撃のことは考えなくていいとのこと。「戦う」という状況になれるためらしい。

「戦う」練習を十分積んだはずだけど、実践と練習は違うそうだ。

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