第30話 魔力制御
「今日は魔法について教えよう」
「え?」
加護について方針が決まった後、ハンネさんが唐突にそんなことを言い出した。
「母乳の出をコントロール出来ないのではないか?」
「は、はい。怖い思いすると沢山でたりしますけど、自分では止められないです」
「それならば尚更魔法の練習をしよう。上達すれば制御できるはずだ」
「そうなんですか!?」
「それに、エステルの加護は魔法系であることはほぼ間違いない。鍛えれば魔法も使えるようになるだろう」
薄々そうかな?とは思っていたけど……。
そうか、私も魔法が使えるかもしれないのか。
「まずは魔力操作を覚えよう。両手を出して」
ハンネさんに言われた通り、両手を出すとハンネさんは私の両手を取った。
「今から私がエステルの中に魔力を通す。それを感じ取ってみてくれ。」
「は、はい」
「リラックスして……目を閉じて……自分の内側に意識を向けるんだ」
ハンネさんの言われた通りにする。
リラックス、リラックス。深呼吸かな? すぅーはぁー。
自分の内側……よく分からないけど変化を見逃さないようしないと。
ハンネさんの手の温もりがはっきりと感じられる。
次第にハンネさんの手から伝わる熱が徐々に増えていくような感じがしてきた。
う~ん、勘違いだろうか?
その熱が右手から徐々に移動して左手まで動いたような感じがあった。
「どうだ? 感じるか?」
「はい……たぶん、右手から左手に何かが移動したような?」
「お? もうそこまで感じたのか? しばらく繰り返すからしっかり感じてみてくれ」
今度は左手から右手に、右手から左手にその暖かい何かを必死で追いかける。
「今、通したのが魔力だ。これと同じようなものが体内にないか良く感じてみてくれ」
「はい」
移動した暖かいものと同じ感覚を自分の中で探す。
う~ん……。胸? どうも胸に妙な感覚を覚える。
手を通った暖かいものより各段に強い感じがする。
「えっと胸に何か感じます」
「うん、加護で魔力を得た場合、加護に関する場所に魔力が極端に集まる。加護をコントロールするにはそれを制御する必要がある。怖い思いをして母乳が沢山出たのは、自身を守るために無意識化で魔力を高めたためだろう」
「なるほど! そういうことだったんですね。魔力が胸に集まらないように制御できれば、母乳もでなくなりますか?」
「そうなるはずだ。母乳の生成には必ず魔力が関わっている筈だ。材料として魔力が無ければ母乳は出ない」
おぉぉ!! これは必死に練習しないと!
「魔力制御がしっかりできない限り、他の魔法の習得は難しい」
「分かりました。練習頑張ります!」
母乳の出もコントロールできるし、魔法も使えるようになる。
良いことづくめだね。
「うん、コントロールが甘いまま魔法を使えば、必要以上の威力が出たり、魔力が元から集まっている場所で発動したりする。つまり魔法が胸から出る」
「それは……カッコ悪いですね……」
胸から魔法が飛び出ているところを想像してみる。
う~ん、やっぱりかっこ悪い。
魔法使いと言えば杖や手から魔法を出しているイメージだ。それが胸って……。
「制御が甘い状態では、例えば火魔法を使った場合、服が燃えて胸が丸見えになるぞ」
「切実に困ります!」
それも想像してみる。敵が現れて魔法を使う。するとどうだ。私の胸が丸出しになる
唐突に上半身裸になるんだ。かなり特殊な変態女でないだろうか?
私は家事の合間を縫って必死に魔力操作の練習をした。
家事事態は最新の魔道具のおかげでほとんど手間がかからない。
毎日それなりに時間がとれる。
ハンネさんから時々アドバイスを貰い、2週間もするころにはかなりスムーズに行えるようになってきた。
日常生活で母乳が出ることはほぼ無くなった。
まだ驚いたときなどはちょろっと出てしまうけど、ビショビショになるほどではない。
当て布で何とかなる程度だ。
「エステルは習得が早いな。魔力制御しながら普通に動けるようになるには1年くらいの鍛錬が必要なんだが。制御しながら家事ができているな。」
「そうなんですか?」
「うん、立ち止まって集中しながら魔法を使うことはそれなりに早くできるようになる。しかし、戦っている最中にそんな悠長にしていたらやられてしまう」
確かにそれはそうだ。
「単独で活動する魔法使いには必須技能だ。……これだけ習得が早いなら一緒に森にも行けそうだな。」
「森ですか?」
「この街のすぐ近くに魔の森と呼ばれる場所がある。豊富な薬草があるので時々採取に行っているんだ。ただ魔物が出る」
「え!? 危険じゃないですか」
「中級までの魔法がそれなりに使えれば問題ない。薬草は研究に必須だからな。どうしても行く必要がある」
うーん、大丈夫かな?
ハンネさんにはかなりお世話になっている。
私が魔法を使えるようになればもっとお手伝いが出来そうだ。
頑張って習得しよう!
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