第28話 事情説明
<エステル視点>
朝の日の光が部屋を照らす。
うーん、気持ちの良い目覚めだ。
あんなに沢山泣いたのは久しぶりな気がする。
ここ数年は辛いことがあっても我慢するように声を殺して僅かに涙を流す程度だった。
大泣きしたことで凄く気持ちが軽くなったような感じがする。
さて、朝食の準備をしないと!
私は洗面所に向かい身支度を整えたあとキッチンへ向かった。
丁度朝食が出来上がったころ、ハンネさんも起きてきた。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
ハンネさんはどこか気恥ずかしそうな感じで挨拶を返してきた。
一緒に泣いたからだろうか? 昨日よりハンネさんを身近に感じる。
「エステル。そう言えば姉さんの手紙を読ませてなかったな」
そう言ってハンネさんは手紙を差し出してきた。
「あ~、今読んでもらえると助かる」
ハンネさんがそう言うのでお言葉に甘えて読ませてもらった。
手紙にはハンネさんの健康を気遣う内容、母と父の体調、薬を融通してほしいこと、私のことが書かれてあった。
(お母さん……。私のことを思って手紙をだしてくれていたんだな)
その事実に胸があったかくなった。
「すまん……」
「え?」
唐突に謝られ、私は戸惑ってしまった。
「私がこの手紙をキチンと読んでいれば、薬を融通することも医者を手配することもできた。姉さんたちは死なずに済んだかもしれない……だから、すまん」
あぁ、なるほど。
そう言われれば確かにそうかもしれない。でも……。
「ハンネさんはお母さんが死んで、悲しいですよね?」
「え? うん。とても悲しい」
ハンネさんは軽く驚いた顔をして答えてくれた。
「あの……。私、ハンネさんのこと、もっと冷たい人だと思っていたんです。母の死を告げる手紙を出しても何一つ連絡もなかったから」
「あぁ、……そうだろうな」
私の言葉にハンネさんは暗い顔になってしまった。
慌てて言葉を続ける。
「あ! いえ、だからお母さんの死を悲しんでもらえて嬉しいと言うか。お母さんを好きな人がいてくれて良かったと言うか。その、そんなことを言ってくれるハンネさんは優しい人なんだなってそう思いました」
正直、叔母に対する元の評価がかなり低かった。
本当に肉親の情を一切持ってない人なんだろうと思っていた。
薬の材料にされてしまうのではないかと本気で心配するくらい酷かったのだ。
それがどうだろう?
私を居候させてくれるばかりか、家具も一式そろえてくれた。
それに私の拙い料理も美味しいと食べてくれた。
母の死も一緒に悲しんでくれた。
悲しみを共感できる同士と言えるだろう。
「それにハンネさんは、お貴族様の手紙すらもろくに開封できないほど忙しかったのでしょう? それならもう仕方ないではないですか」
「……ありがとう。しかし、……」
「さぁ、朝食を食べましょう」
まだ何か言いたそうにしているハンネさんをやや強引にテーブルへ座らせる。
ハンネさんは良い人で母はもう死んでいる。
それが全てなのだ。
掘り返したところで誰も幸せにはならないだろう。
「あー、姉さんが死んだのは4年も前なんだよな? 今までどうやって暮らしていたんだ?」
朝食を食べながらハンネさんが聞いてくる。
「えっと、村長さんから支援を貰っていて。……父に読み書きと計算を習っていたのでそれでちょっとしたお手伝いをしたりしてました」
「なるほどな。義兄さんがな。あの人頭が良かったものな。……ん? それで生活できていたなら、何でまた今になって私のところに?」
「えっとですね……」
そこから私は事情を説明した。
胸が大きくなって村の女性陣から疎まれていたこと。
特殊な加護を得てしまったこと。
それを理由に村の男(ロブのことね)や村長に襲われかけたこと。
「大丈夫だったのか!?」
「あ、はい。村長の奥さんが飛び込んできてくれたので……ただその後、人の旦那を誑かすなって言われて叩かれましたけど」
「はぁあ!? なんだそれは!」
ハンネさんは私が受けた仕打ちに本気で怒ってくれているようだ。
「ですよね!」
分かってもらえてうれしい!
やっぱりあの村がおかしいんだな。
「私ももう何がなんだかで。それで身の危険を感じて逃げ出してきたんです」
「う~む……成る程、災難だったな。……それで、特殊な加護っていうのは?」
「え~っと……」
うーん、とても説明しづらい。
「言いづらい内容か? 信じてもらえないかもしれないが私はエステルの味方だぞ。お前は姉さんの忘れ形見だ。できる限り力になる」
「いえ、ハンネさんのことは信用してます! ただその、ちょっと恥ずかしくて……」
「恥ずかしい?」
「えっとですね。加護の名前なんですが【癒しの母乳】って言うんですよ」
「……母乳?」
<あとがき>
ハンネ
Lv 28
職業 魔法使い
HP 96/96
MP 205/205
力 39
素早さ 65
体力 70
器用さ 111
魔力 131
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