第27話 思い出の味
<ハンネ視点>
「夕食は私が作りますね!」
家に帰るとエステルが張り切って言い出した。
ここ最近は薬の研究のため、キチンとした食事を取っていない。家事もおざなりだ。
そう考えると、エステルが居候して家事を取り仕切ってくれることになれば、非常に助かる。
夕食の時間になり、食卓につく。
「都会で暮らしていたハンネさんにお出しするのはちょっと恥ずかしい田舎料理ですけど」
そんなことを言ってスープをよそってくれた。
(はて、この匂いは?)
なんだかとても懐かしい匂いだ。
それに気をとられている間にエステルも向かいに座っていた。
「「いただきます」」
(これを言うのも久しぶりだな)
そんなことを思いながら一匙すくって口にいれた。
(あ、この味はどこかで)
もう一匙口に含む。
(これは、この味は――)
何かとても――そう、懐かしい味だ。
「あ、あのハンネさん? 口に合いませんでしたか?」
何か驚いたような顔でエステルが聞いてくる。
「うん? いや、そんなことないぞ。とても旨い」
とても懐かしい感じのする美味しいスープだ。
なんでそんなことを聞いてくるのか?
訝し気に答えてしまった。
「そ、そうですか?」
何やら納得の言っていないようで歯切れが悪い。
「なんだ? どうした?」
「いえ、その……。えっと、ハンネさんがスープを飲んだあとに涙を流していたので」
上目遣いで恐る恐るといったようでそんなことを言った。
「え?」
私は慌てて目じりを拭ってみると確かに涙を流していた。
「あれ? なんで涙が?」
いよいよ寝不足で涙腺すらバカになってきたのか?
「ま、まぁ気にせずに食べよう」
涙が流れる理由は良く分からないがご飯をしっかり食べて、寝れば治るだろう。
「は、はい」
泣きながらそんなことを言われたら戸惑うわな。
えっと何か話題を変えないと……。
「しかし、旨いなこのスープは。まるで姉さんが作った――」
そうだ! 自身が発した言葉で思い出した。この味は姉さんが何時も作ってくれていたスープの味だ。
味の記憶と共にさまざまなことが一気に引っ張りだされてくる。
何時も気遣ってくれた優しい姉さんの顔。
魔法系の加護を授かった時に我がことのように喜んでくれた。
私の作った粗末な薬を宝物のように扱ってくれた。
そんなことが次から次へと思い出される。
(あ、ダメだ)
意識すると一気に涙があふれてきた。
なんとか誤魔化さないとまたエステルを戸惑わせてしまう。
スプーンを動かし、スープを口に運ぶ。
「う、旨いな。このスープ。本当に旨い。……姉さん。……姉さん」
食べれば食べるほど姉さんとの思い出があふれてくる。
姉さんが死んでしまったと聞かされて止まっていた感情が一気に動きだしたかのようだ。
「姉さん。……死んでしまったのか。もうスープを作ってもらうことは出来ないんだな」
感情が溢れ、思ったことがそのまま口から出てしまった。
「お母さん……」
そんな私に引きずられたのかエステルも涙を流しながらスープを飲んでいた。
結局その日は二人でわんわん泣きながらスープを飲んだ。
そして布団に入るとすんなり眠ることができた。
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