第20話 王子の勤め


僕はエドワード・ロイク・バティスト・ベルレアン。

ベルレアン王国の皇太子。

それが僕の肩書だ。


ベルレアン王国の歴史は魔族との闘争の歴史でもある。

度重なる魔族の攻勢を人類の盾となりはじき返してきた。

勿論我が国の力だけで成したわけではない。周辺国からさまざまな支援を貰っている。


魔族とは邪神を崇拝し、魔物を操り、世界を混沌に帰さんとたくらむ者たちだ。

初代ベルレアン王国国王は、魔族との戦いで地位を築いた人物だ。

魔族により滅ぼされた国を義勇軍を作り奪還し、逃げ伸びていた王族の姫を娶り、国を起こしたのだ。


その戦いで大活躍したのが初代国王と共に戦った聖獣だ。

聖獣とは神聖属性を持つ白い狼であったと伝えられている。

咆哮一つで低位の魔物ならば消し飛ばしたとか。


聖獣については当時から研究されているが、現代にいたるまでどこに生息する何という生き物なのか解明されていない。

初代国王が契約した聖獣を除いて神聖属性を持つ狼の存在が確認できていない。

暗黒属性を持つ狼ならフェンリルが有名なんだけどね。


初代国王自身も傷ついた子供の狼を保護して育てたところ、それが神聖属性を持つ狼であったということのようだ。

そのため、ベルレアン王国では白い獣を神聖し保護する風潮がある。

当時は有力者がこぞって白い獣を保護したらしいが神聖属性を持つものは一匹もいなかった。今では過剰なことは行われていない。

民間で縁起物ともてはやされる程度のものだ。


最近、魔族の動向が活発になっている。

やつらの動向を伺うに大規模攻勢がありそうだ。

侵攻ルートを想定するとデリグラッセの街が最前線となること予想された。


今、僕はデリグラッセへ視察に来ている。

魔族との戦争において陣頭指揮を取るのは皇太子となる者の義務だ。

自分の目で将来戦場となる予定の場所の地理と周辺施設の状態を確認しておきたかったのだ。


あと、人物。

この街の有力者としっかり顔合わせを行う必要がある。

僕は特殊な加護を授かっている。

【生命の瞳】

この加護を使い、相手を見ると相手の感情や考えをオーラの色としてみることが出来る。

悪い感情ならば全身を暗め色で、良い感情ならば明るめの色で見える。

連続殺人犯をこの加護で見たことがあるが真っ黒でどす黒いオーラに覆われていたものだ。


僕に対し悪感情を持っているかどうかも加護の力ですぐにわかる。

暗い色のオーラが僕の方へ伸びていればそういった意思がある証になる。


僕の加護については公表されておらず、調べようとすると【真実の耳】に行き当たる。

【真実の耳】は嘘を聞き分ける加護として有名だ。

有用ではあるが対策は取れる。言い回しを気を付ければよいだけだ。調べた人物はそれで安心し、さらに調べようとしない。

つまり二重に隠されているというわけだ。

真実を知るのは極一部の人達だけだ。


この街の領主を始め、主だった者たちとの顔合わせは住んでいる。

皆、心からの友好を示してくれた。

こういった人たちの心を無断で覗くのは罪悪感を感じずにはいられない。


この街を訪問するに辺り、僕の護衛として騎士のサミュエル・ジスラン・マルクリーと宮廷魔法使いのダンフォース・ジュラール・マリタンの二人がつけられている。


サミュエル、相性はサム。僕より5つ上で、まるで兄のような存在だ。

燃えるような赤毛にさわやかな緑の瞳。

何時も年上の余裕を感じさせる落ち着いた態度。

そのためか、女性にとても人気がある。

当人もそれを理解し、理由している節がある。夜会がある度に別の女性を連れ歩いているらしい。

しかし、そんなことをしているのに関わらず女性とのトラブルを一切聞かないから不思議だ。

剣の腕も一流で、僕は一度も勝てたことが無い。


ダンフォース、相性はダン。僕と同い年で17歳。

流れる長い黒い髪に意思の強そうな瞳。

自分にも他人にも厳しく、常に最善を尽くそうとする努力家だ。

その性格故か周囲との摩擦もあるが、それを全て実力で黙らせてきた

魔法への造詣が深い。

本来、専門の技師でなければ作れない、魔道具まで自前で作れるほどだ。

それだけではなく、様々な知識を貪欲に身に着けている。

法律や経済、各地域の風習、料理や娯楽など多岐にわたる。

知りたいことはダンに聞けば答えてくれるのでとても助かっている。


人数は少ないが、共に一騎当千の猛者だ。

それに幼少より共に過ごしたもっとも信頼が出来る者たちでもある。

信頼出来るというのは重要だ。魔族との戦争の歴史において人が裏切ることは稀にある。

また、人数を少なくすることで目立つの防ぐ効果がある。

魔族にこちらが気が付いていることを悟らせてはいけない。

そのうちバレるだろうが、出来るだけタイミングを遅くしたい。



「結局、ダンが作った魔道具は意味がなかったな。」


「意味が無いわけではない。……ただ、この状況にそぐわなかっただけだ。」


サムの言葉にダンはややむくれながら答えた。


「認識阻害の指輪でエド一人意識の外に出ても、俺やダンがすぐ近くにいては結局目立つからな。」


僕も目立つ方ではあるけれど、2人もかなり周囲の視線を集める。


「……護衛が対象から離れるわけにはいかないだろう。」


「だがエドが認識阻害の指輪を付けると俺たちもエドを認識出来ないのはな。」


護衛が護衛対象を認識できないのは問題だよね。

認識阻害に対する対抗魔法もある。ただ、護衛の最中、その魔法を使い続けるわけにもいかない。

これが僕一人でこっそりと活動するなら認識阻害の指輪は最善だったのだろうけど……。

流石に安全が確認出来ている街中とはいえ、護衛無しで歩き回るわけにもいかない。


「結局3人とも怪しいフード姿か。」


騎士団から借りたフード付きマントを3人でかぶり、身バレを防いでいる状態だ。

目深に被ったフード姿で帯剣している3人組。夜道で出会ったら暗殺者と疑われても文句は言えない。

それだけ怪しい恰好のためか、周囲が自然を視線を外し、道を開けてくれる。

非常に目立つが歩きやすくはある。


「我々の存在を知られるわけには行かない。これでいいんだ。これで!」


「ふふ。ダン、次は幻影の魔法がかかった指輪とかどうかな?」


珍しいダンの不手際に僕は笑いながら言った。


「……そうですね。次はしっかりと準備してまいります。」


ダンは周囲に弱みを見せないので強い人間に思われがちだけど、繊細なところがある。

今もだいぶ凹んでいることだろう。


「そうそう、ダン、この街周辺の状況を教えてくれないか?」


ダンの得意分野の話を振る。これで多少は持ち直してくれると良いけど。


「はい、まずこの街の産業ですが林業が盛んで、木材の質が良いと――」


ダンは売られているものや建物の特徴などを指さし、関連付けて教えてくれる。

僕も書物などである程度知っていたが、実際に現地で、現物を見ながら得る知識はそれらの匂いや肌ざわりなどを5感で感じ、より多くの情報を得ることが出来る。

文字や挿絵などから読み取れない奥行や価値を知りえることができる。

それに書物からの知識は著者の影響がどうしても出てしまう。

著者が軽視した内容や気が付かなかったことは載っていない。

自分で体験するというのはやはり重要だ。


しかし、それにしても……


「ここら辺はずいぶんと平和だったんだね。」


「そうですね。冬の厳しさなどはありますが、大規模な災害や魔族の侵攻などにさらされておりません。」


「そう……、では籠城は考えないほうが良いかもしれないね。」


籠城戦は守りやすくはあるが市民へのストレスが大きくなる。

この街は長いこと平和であった。そのため、強いストレスへの耐性が低いことだろう。

最悪、ストレスから暴動が起きる可能性もある。

木材が多く使われ、建物も密集していることから放火が起きれば手が回らなくなる。

籠城は使うにしても最後の手段となりそうだ。


「なるほど、主要な砦がなく城壁都市はあるものの籠城に難あり……か。魔族が山越えしてまで攻めてくる利点あるわけだな。」


魔族は北からやってくる。

大陸北部に魔族の国がある。

普段は北部の西側にある平野で戦争が行われている。

東側は山々が連なり、進軍には向かない。

それに加え、北の山にはフェンリルがいる。一般では言い伝えなどと言われているが実在するのだ。

フェンリルは魔族にも操ることが出来ない強力な魔獣だ。

魔族はフェンリルの討伐に成功したか、もしくは縄張りを上手く迂回するルートでも見つけたのだろう。


「魔族の侵攻までにはまだ猶予がある。今のうちに陣地の構築を急がせよう。」


明日にでも市街へ陣地に適した場所の視察を行うこととしよう。


<あとがき>


エドワード・ロイク・バティスト・ベルレアンのステータス


Lv    27

職業   王子

HP   264/264

MP   105/105

力    91

素早さ  97

体力   96

器用さ  99

魔力   151

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